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色気ダダ漏れアラフィフ俳優・佐々木蔵之介が舞台で挑んだ、「極限の状況下における同性愛」演技をふり返る

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映像で観るのとはまったく違う顔。BENT

 劇場へ足を運んだ観客と出演者だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 過激な性描写や社会風刺など、舞台でしかできない刺激的な表現の中に身を置くことは、演じ手にとっても大きな糧となるもの。映像作品でさわやかな笑顔を見せている俳優が、舞台の上では驚くほどエロティックな描写に挑戦していることもあります。

 43日から放送予定のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』で、主人公が働く洋食屋の料理長を演じる佐々木蔵之介は、もともと関西の小劇場出身の俳優。ブレイクのきっかけとなった「オードリー」以来17年ぶりの朝ドラへの出演が話題になっていますが、本領はやはり舞台です。昨年7~8月の上演された佐々木の主演作「BENT」は、ナチス政権下の強制収容所で人間としての愛と尊厳を貫いた同性愛者の物語です。

「俺の指を感じるか」
「あぁ……

 強制収容所で、見つめあうことも触れあうこともできないふたりの男が、わずかな会話から心を交し、言葉で愛撫しあい、絶頂する。エアセックス、とでもいえそうなベッドシーンが大きな注目を浴びたBENTは、1930年代のドイツを舞台に、ナチスによって迫害された同性愛者の悲劇。1978年の朗読上演を経て79年にロンドンで初演され、主人公の自暴自棄な快楽主義者マックス役を、実生活でもゲイであることを公表しているイアン・マッケランが演じ、96年には「ベント 堕ちた饗宴」の邦題で映画化もされています。日本での初演は1986年、2004年は椎名桔平と遠藤憲一のコンビで再演され、昨年が3演目の上演です。

男性同性愛者が最も蔑まれた時代

 佐々木が演じる、クスリの密売などで生計を立てている同性愛者のマックスは、夜な夜な女装のオーナー、グレタが経営するクラブに入りびたり、泥酔しては男を持ち帰るような、欲望と快楽に生きるダメ人間。その日も金髪の美男子を連れ帰り、同棲する恋人のルディと痴話げんかのさなかにナチス親衛隊による粛清事件が起き、強制収容所へと護送されることに。護送車の中でナチスから暴行されるルディを助けようとしますが、ピンク色の星のワッペンをつけた男、ホルスト(北村有起哉)に制止されます。

 第二次大戦中のナチスによるユダヤ人迫害は世界中によく知られていることですが、強制収容所でユダヤ人以下の扱いを受けたのが、実は男性同性愛者でした。ピンクの星をつけられた同性愛者は、一般の囚人からも侮蔑されながら、砕石作業など重労働を課せられたといわれています。

 収容所でホルストと再会したマックスの胸につけられていたワッペンは「黄色の星」。 同性愛者という最下層としての収監ではなくユダヤ人を装うために、まだ幼い少女の死体を強姦しろというナチス高官の命令に従ってまで、マックスは黄色の印を手に入れていました。収容所での仕事は「石運び」、ただ右から左、またその逆へと石を動かすだけの無意味な作業中、ふたりは心を通わせるようになります。

 わずかな休憩時間、ふたりはただ横に並ぶだけで、目を合わせることすら許されていません。暴力と死がすぐ隣にあり、理不尽で残酷な仕打ちを受けながら、どうしてセックスにいたったのか。作業中、わずかにすれ違うときのみ視界に入るお互いの姿に性的な魅力を感じ、誘うまでの流れは、決して通常の恋愛の駆け引きと異なものではなく、環境や性別にかかわらずひとはひとを求めるのだと示唆しています。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121

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