ある男性が「童貞のときのあの感覚をもう一度味わえるなら、いくら払ってもいい」というのを聞き、その無邪気さにうなったことがあります。何も知らなかったからこそすべてがきらきらとエロく見えた……私にもそんな時代があったはずですが、遠すぎて思い出せもしない! 「物事を知らないほうが楽しい」とはまったく思わないものの、性のあれこれを見聞きするうちに自分自身が性を無邪気に愉しめなくなってきたとは感じます。
特にここのところはニュースを見ればAV出演強要問題や、性犯罪に関する刑法改正(の国会審議が後回しにされているうえに、十分な改正案とはいえない)、幼い女の子が中年男性の欲望によって殺された事件……気が滅入る報道ばかり。自分が直接被害に遭ったわけでなくとも、性の、特に女性にとっての性の安全や自由が何ら守られない国に住んでいると思い知らされます。
気持ちいいことが好きで、自分の身体をとおして性の探求をする時間が何より愉しいと思っていたはずなのに、気づけば性のことを考えると屈託が先に立つ……。そんな私が、ある女性の話を聞いて大いにエンパワーされました!
トップ画像の女性、かっこいいと思いません? MIDORIさんは京都生まれ、東京育ち、14歳で渡米し、現在はサンフランシスコでセクシュアリティの専門家として活躍されています。
性の「正論」に励まされる
4月某日に開催された彼女のトークイベントの冒頭、「セックスポジティブって何だと思う? たくさんセックスすること? ぜんぜん違うわよ!」という力強い言葉を聞いて、私はさっそくしびれました。ネガティブになっていたメンタルに、ガツンと来たよね!
MIDORI「セックスポジティブとは、“人間であることの一部”です。のどが乾く、お腹が空く、友だちを作る、いろいろなものをクリエイトする……そういった活動と同じ。抑えるものではなく、無理やりするものでもなく、ただただ人間であることの一部だと考えてください」
自分の性欲を認めるとか性を尊重するとか、頭で考える以前に、人間であるからには私たちはセックスポジティブであるはず。非常に概念的に聞こえるかもしれませんが、MIDORIさんはこう続けます。
MIDORI「自分がセックスポジティブでいるためには、いろんな知識をもったうえで選択することです。自身の欲望や境界線をよく見定めるのが大事。ここまではできるけど、この一線は超えない……という自分のリミット、そして相手のリミットを把握する。それぞれのできることで重なっている部分を見つけてから、一緒に悦びを創造していくのです」
嗜好的に受け身でも(私もそう)、それは何をされてもOKという意味ではありませんよね。まして「彼に嫌われたくないから」という理由でイヤなプレイも受け入れていては、自分自身が削られていきます。ネガティブに拍車がかかる……。
MIDORIさんのお話は、いってしまえば正論です。正論=“正しさの押し付け”と感じて斜めに構える人もいそうですが、私は「セックスについての正しさ」と「それを力強く謳ってくれる大人の存在」に希望を感じました。自分も大人なのにおかしいと思われるかもしれませんが、パワフルな先達が実体験をもとに発信してくれる正論にはつくづく励まされます。