それにしても、広の「施設に戻りたい」発言は、まず陽一と共有するべき問題だと思うのですが、結衣は打ち明けません。わかりやすい性格の結衣の様子がおかしいと気づいた陽一が「広と何かあった?」と聞いてきても、「大丈夫です」と返答します。え、なんで……。全然大丈夫じゃないことに気づいている陽一は歯がゆそうです。結衣と陽一は、広の誘拐事件の後、夫婦間にすきまができて離婚に至り、広の生存がわかって再び一緒に暮らしはじめましたが、再婚はせず、同じ部屋で別々の布団で寝ているという宙ぶらりんな関係。そもそも奥手な2人、元の鞘に収まるにも時間を要するんですかね? 親子間だけでなく夫婦間の空白は埋まるのでしょうか。恋愛結婚だっただけに、再び「恋愛」を経ての元サヤは難しいでしょうが、「広の両親である夫婦」になる必要が今、あるんですよね。
一度失った信頼関係を再生させることは容易ではありませんが、彼らを心配した親友夫妻・莉沙子(板谷由夏)と西原教授は、夫婦間は言い過ぎるくらい言い合ったほうがいいってことで、結衣と陽一の目の前で、敢えて派手な夫婦喧嘩を繰り広げます。結衣にその気になってもらうためです。まんまと引っかかった結衣は、広の態度が自分にだけ冷たいこと、学校で貰ったプリントを渡してくれなかったこと(無断で部屋に入ってしかもバレたことは言わず)、お弁当もたぶん食べていないこと、さらには「施設に戻りたい」と言っていたことを打ち明けました。が、陽一は「引き止めなきゃ!」と即答。それは結衣ができなかったこと。そして結衣は引き止めてもいいのかどうか、逡巡しているはず。
陽一「施設に戻りたいなんてダメだよ、引き止めなきゃ」
結衣「……」
陽一「結衣」
結衣「わかってる……。そうだよね……引き止めなきゃ」
ちなみに西原夫妻の喧嘩の議題だったのは莉沙子の海外出張。西原教授の怒りのポイントは、莉沙子が「1学年ランチ会」(結衣がプリントを貰いそびれたやつ)に出席したくないから、当初3日予定だった出張期間を2週間に延ばしたこと、だそうで。うわ、子どもが中学生になってもそんな行事あったら確かに面倒くさいかも……。そろそろ良い母になれないと悩む女性・莉沙子にスポットを当ててほしいですね。
陽一の「引き止めなきゃ」という意見を聞いた結衣は早速、広との話し合いに挑みます。ほんと、挑むって感じなんです、ここ。どーにかして広の本心に触れたい、距離を縮めたいっていう。結衣が意気込んで「言ってよ、言いたいこと」「この前施設に戻りたいって言ってたでしょ、あれどういうこと?」と問いかけても、広は「ないし」「もういいです」と相変わらずの塩対応。結衣が再度「どうして戻りたいの?」と聞くと、「施設に戻してくれるんですか?」と聞き返すあたりは(おそらくは、戻してくれるなら話してもいいって意味)、中学生の交渉術って感じですね(苦笑)。けれどそんな広がようやく打ち明けた本当の気持ち、それは結衣にシビアな現実を突きつけるものでした。
広「最初の頃は、言われるままに、ここに来て、みんな周りの大人が言うように、俺のお母さんだなーって。でも、お母さんって何? 母親って何ですか? 考えてみたけど全然憶えてないし、あなたのことも全然思い出せないし、悪いけど、ほんと悪いんだけど、あなたのこと、お母さんとは思えません(きっぱり)。3歳の頃に連れ去られたって聞いて一生懸命思い出してみたけど、思い出すのは……」
広が思い出す一番遠い思い出は、麻子ママと暮らした港町での日々。「楽しかった、なーんにも考えず、なーんにも知らなくて、笑ってるだけでよかったあの頃、楽しかった」と振り返り、「辛い……」と声を震わせるのでした。限界です。広は、施設の今偉先輩(望月歩)にも電話で遠回しに「助けて」と伝えていました。
結衣は、広を施設に戻すことを決心します。もちろん大反対の陽一さん「二度と戻ってこない、そうなってもいいの?」「(親の)エゴでも何でも、絶対に手を放しちゃダメだ!」と、珍しく強い口調で諭します。なぜなら陽一さんは、離婚に際して結衣を引き止められなかったとことを心底後悔したのです。同じ過ちを繰り返したくない……と。陽一の後悔を悟りつつも、結衣は、広から「母親と思えない」と言われたことを打ち明けました。
結衣「子どもが何を考えているのか、子どもの気持ちがわからないなんて、母親失格。ううん、母親失格って母親だから言えるんだよね、私はそれ以下だった」
その上で、自分のような状況でどうすればいいのかはどんな育児書にも載っていないし、お手本はない、答えは広の心の中にあって、それを見つけていくしかない……結衣はそのように考え、「いつかあの子にとって唯一無二のお母さんになる!」と、陽一に決意表明しました。親子であろうと別々の人間なんだから、子ども(それも乳幼児ではなく中1男子)の気持ちがわからないから母親失格ってこともないと思いますけどね。それにしても、一連の流れを見ていくと、息子と9年ぶりに再会したのは結衣も陽一も同じなのに、あれこれ苦悩するボリュームは明らかに「母」の結衣が圧倒的に大きいです。もちろん、離れている年月、広には育ての父はいなかったけど育ての母はいたから、という事情もあるでしょうけど……。広との関係が比較的良好な父・陽一が間に入るとか、そういう発想はないんですかね。あんたは父にならなくていいんかい。
そして、ばあば(里恵)も含めた4人で遊園地に出かけ楽しいひと時を過ごしてから(中1男子が両親・祖母と遊園地行って楽しいとは思えないけど……)、広は迎えに来た木野(中島裕翔)と共に施設に戻っていきます。最後の日、ようやく広がお弁当を食べてくれたことに感激した結衣は走り出します!(このドラマ、海沿いや川沿いを走るシーン多いです) 広と木野に追いついた結衣、広に対する溢れんばかりの感謝を伝えました。食べてくれなくてもお弁当を作るのが楽しかったことや、最後に食べてくれたこと、短い間でも一緒に暮らしてくれたことなどなどみんな「ありがとう」、そして「待ってる」と。広は無表情、無反応で踵を返しましたが、その背中にも「お母さん、あなたが帰ってくるの待ってるから!」と叫ぶ結衣、9年ぶりに再会した息子に、余すことなく自分の愛情を伝えたいんだろうなぁ。けれど一方の広は、突然自分が待っていたものとは違う方向からの愛情を寄せられても、困惑するし持て余してしまうのかも……? ドラマの時系列を見る限り、広は2017年春に中1になって実の親と再会し、一緒に暮らすため転校し、また施設に戻るのであればまた転校するわけですよね。中学生になったばかりの時期に2回も転校(それも短期間)って大変だなぁ。
では、広への愛情を断ち切るつもりで広を拒絶した麻子ママはどうしてるのでしょう。木野が児童相談所の会議で語ったところによると、麻子は広を施設に預けた後の2年間、刑に服していたそうです。広と決別した麻子は、心機一転、刑務所で知り合った相手に紹介してもらった仕事を始めているはず……と、木野は呑気な予想をしています。ってか、なぜ麻子が刑に服すことになったのか、罪状が気になるんですけどっ!
木野が語ったように、麻子は新しい人生を始めようと、刑務所時代に一緒だった井下さなえの元を幾度も訪ねていましたが、井下に邪険に扱われてしまいます。麻子のスマホの待受の広の写真……(前回ネットカフェで全削除してたはずが、1枚残してたんか)。しかも、どうやら井下は柏崎オートの事務員・琴音(高橋メアリージュン)と知り合いのようだし、世間狭っ……。今後、柏崎家と麻子とがまた何らかの形で関わりを持つことになるのが目に見えています!
その頃、木野と共に施設に向かっていた広は、なんと途中で木野を巻いて、ナウ先輩と落ち合っています(間抜けだな、木野)。あちこちであれこれ起こっている状態で第四話は終了、なかなかしっちゃかめっちゃかです。公式サイトの予告動画やストーリーを見ると案の定、麻子が琴音、ひいては里恵と接近するようで……柏崎オートで働いちゃう? もし、結衣と麻子がひとつ屋根の下で……なんて展開になったらカオスなんてもんじゃないです。
【試写レポート】テレビドラマにおける母親という存在の描かれ方
【第一話】沢尻エリカ演じるベタベタ清純派の良妻賢母が宿した小さなリアリティ
【第二話】3歳まで育てた産みの母は「何も知らないおばさん」…育ての母の強烈な手紙
【第三話】育ての母の態度急変!親たちに振り回される不憫な息子
<そのほかのドラマレビューはこちら>
1 2