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【第5回】トランス男子のフェミな日常 「あなたはありのままで美しい(はず)」

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夏が来れば思い出すものがある。はるかな尾瀬ではなく、乳腺組織だ。

「いっそのこと、アラスカに移住すればいいんじゃないか」

よく、同じくトランスジェンダーの友人とこんな軽口を叩く。気温が高くなってくると、着ている服の枚数が少なくなり、体の線が目立つ。私はいまのところ胸を取る手術を受けていない。たとえ胸を“ナベシャツ”でつぶしていたって、なんとなくTシャツ1枚で過ごすのは心もとない。

初夏から残暑にかけては、やっぱり自分が何かの異常乳腺生物Xに寄生されているという感覚がぬぐえないから「もういいかげんに胸をとろうかな」と思う。そしてウジウジ考えているうちに、やがて栗ご飯の美味しい時期になって、服の枚数が増えてくると乳腺組織のことを忘れがちになる。で、うっかりまた夏がやってくる。

この年間サイクルについて考えると、我ながらテキトーだなとか、ストイックな身体違和持ちからは叱られてしまうのではないか、などと思う。日本のトランス男性の草分け的存在である虎井まさ衛氏は「無人島に漂流したとしても必ず手術を望んだだろう」と書いているが、私の場合「島の緯度による」。とはいえ、自分の身体とどう付き合うかということは誰にだってやっかいな事柄で、比較してどうこうということでもない。

自己の身体をめぐる受け入れ難さというのは、フェミニズムにおいても長いこと主要なテーマのひとつだ。この社会では「あるべき身体」のイメージがとても狭く設定されている。たとえば女性なら若くてスリムでなければ美しくないというメッセージはあちこちに溢れていて、このことは、多くの人たちが命を落とすほどの摂食障害に追い込まれている現実にもつながっている。先日も電車のCMで「ガールズパワー」と書いてあるから、なんだろうと思ったら脱毛のキャンペーンだった。脱毛してキレイになれば女の子は自然に自信を持って強くなれると書いてあるが、そんな生物が存在するなんて知らなかった。

そんなわけで、私たちの多様な身体に対する決めつけをはねのけるためにフェミニズムが生み出した珠玉の反逆メッセージこそが「あなたはありのままで美しい」だ。およそすべての解放運動は、内面化された自己否定をはねのけるところから始まる。黒人解放運動にせよ、障害者運動にせよ、自分たちの肌の色や障害のある身体をネガティブなものだと思い込まされているところから、いや、そうじゃないんだと言いかえすところにバネがある。フェミニズムもその流れに連なっている。

とはいえ、私たちがやせたい、脱毛したい、胸を取りたい、筋肉がほしい、包茎をやめたい、身長を伸ばしたいなどと切実に願っているときにフェミニズムの「あなたはありのままで美しい」という渾身のメッセージは、およそ95%の確率で渾身のギャグないしは余計なお説教にしか聞こえない。なぜなら、それは私たち自身が感じているリアリティとはまったく異なるのだから。

「ありのままで美しい」だなんて、意図は分かるけど、私の乳腺組織については少なくともウソだ。グルグルと考えた挙句、私は、お説教よりはギャグがよいと思うようになった。たとえば語尾を少し変えて「あなたはそのままで美しい(はず)」とか「あなたはそのままで美しい(はずだった)」と付け加えてもいいのではないか。自分は変わらなくてはいけないと感じている人たちにとって「社会があなたにそう思わせているんだ」と思い起こさせる距離としては、多少の笑いがあったほうが押し付けがましくないのではないか、と。

10代の頃から身体違和が持続している身としては、社会の規範が変わるのを待つのは愚かなことだと思いつつ、自分の肉体を社会規範のせいで変えるのもなんだか負けた気がして悔しい。だけど、突き詰めて考えても仕方ないのではないかと最近は思っている。今後どのように身体をカスタマイズするかについては人生の成り行き次第だが、できれば今年の夏は暑くないほうがいい。

遠藤まめた

1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに10代後半よりLGBT(セクシュアルマイノリィ)をテーマに啓発活動をはじめる。主にLGBTの若者支援や自殺予防に関わる。著書に「先生と親のためのLGBTガイド 〜もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)ほか。

twitter:@mameta227

サイト:バラバラに、ともに。遠藤まめたのホームページ

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先生と親のための LGBTガイド: もしあなたがカミングアウトされたなら