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レイプ被害届に対して「法に触れることはしていない」と反論したジャーナリストが否定しきれていないこと

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武田砂鉄

武田砂鉄/論男時評(月刊更新)

 このところ、ワイドショーのコメンテーターとして引っ張りだこで、しきりに安倍政権の肩を持ち続けているジャーナリスト・山口敬之。『週刊新潮』(2017年5月18日号)が彼について「被害女性が告発!『警視庁刑事部長』が握り潰した『安倍総理』ベッタリ記者の『準強姦逮捕状』」と報じたが、本人はFacebookで「私は法に触れる事は一切していない」と否定している。それにしても、安倍昭恵といい、重婚行為に及んだ挙句、警察にストーカー登録されていた自民党の中川俊直議員(現在は離党)といい、何よりも先にFacebookで弁解し、仲間内から「いいね!」を集めるのが流行りである。山口もまた、「フェイスブック上の知人の皆様に、私の見解と対処方針を」と記しているが、この投稿に早速「いいね!」ボタンを押したのが安倍昭恵なのだから、記事のタイトルにある「ベッタリ記者」との揶揄がどうしたって似合ってしまう。

 ジャーナリストが政権中枢と距離が近いからといって、それだけで「御用ジャーナリスト」と片すべきではないけれど、山口の主著である『総理』(幻冬舎文庫)を読んでさすがに驚く。2016年までTBSに在籍していた山口は、第一次安倍政権時から安倍と麻生太郎の仲を取り持ってきた。近しい、というか、もはや政治の流れに参画していると言っていい。その三者間で交わされた内容を著書から拾えば、ある時には「中東の外遊で一緒だった麻生さんから、安倍さん宛の書簡を託されました」と麻生からの人事案を安倍に渡し、ある時には安倍から「山ちゃん、ちょうどいいからさ、麻生さんが今何を考えているかちょっと聞いてきてよ」と言われ、安倍がいた部屋を出て、葉巻を燻らせながらウイスキーを飲む麻生の部屋に出向く。ジャーナリストが政権中枢に肉迫した、というよりも、政権の伝書鳩がジャーナリストを名乗っているように思えて仕方ない。

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「身体に痛みを感じて目覚めた時、あの人が身体の上に乗っている状態でした」被害女性

(「被害女性が告発!『警視庁刑事部長』が握り潰した『安倍総理』ベッタリ記者の『準強姦逮捕状』」/『週刊新潮』2017年5月18日号)

 2015年春にその山口からレイプされた、と『週刊新潮』で告発したのが、ニューヨークの大学でジャーナリズムと写真を専攻していた27歳の女性。山口は2013年から2015年4月までTBSワシントン支局長としてアメリカに駐在しており、女性は13年秋に現地で山口と出会った。日本へ帰国した後も、「しばらくこっちで仕事をしてもらいながら正式な採用に向かうという手も。それなら私が決裁できます」などと有意な立場をほのめかし続ける山口と、就職相談のため連絡をとり続けていた。一時帰国した山口と就職相談で会うことになった女性。串焼き屋に入った時点で、二人きりなのだと初めて気づく。お酒に滅法強い彼女は、酔って記憶をなくした経験がこれまで一度もなかったが、この日はどういうわけか二軒目の鮨屋でたちまち記憶がなくなり、「身体に痛みを感じて目覚めた時、あの人が身体の上に乗っている状態でした」「避妊具をしてない陰茎が見えました」という。

 彼女は薬(デートレイプドラッグ)を入れられたのではないかと主張するが、山口は否定している。トイレにかけこむと彼女の乳首から血が滲んでおり、すぐに逃げようと試みるも再びベッドに顔と身体を押さえつけられてしまう。「何とか抵抗して2度目のレイプをされることはありませんでした」と彼女。仕事の話で来たというのに、ましてや避妊具なしで行為に及ぶとはどういうつもりなのかと本人を問いただすと「君のことが本当に好き」「一緒に薬局でピルを買いましょう」「下着だけでもお土産で持って帰ってもいいかな」と言ったという。女性は警視庁高輪署に被害届を出し、6月に準強姦で逮捕状が発付された。しかし逮捕予定日だった6月8日、急遽、逮捕がとりやめになった。記事では、官邸とも距離の近い中村格警視庁刑事部長(当時)によって逮捕状請求が取り消しになったと報じているが、これが事実ならば、権力者に付き従うジャーナリストの犯罪は揉み消してよいという、極めて愚かな体制が整っていることになる。

 山口はこれらの訴えを受けて、「知人の皆様」に向けたFacebookでどのように弁明したか。「法に触れる事は一切していない」としているものの、この女性に対して、自分の有意な立場を活かして性的関係へ持ち込んだことについては否定をしていない。根も葉もないでっち上げ、というわけではなく、根も葉もあるが犯罪では無いことを繰り返し漂わせ、この手の性暴力事案をうやむやにさせる常套句「女も合意の上だったんじゃないの?」を誘発させている。

 ドラッグなんて使ってない、性行為の撮影も証拠データは残っていない、女性がこれまでもメディアに吹聴してきたのは知っている、という言い訳では、避妊具をつけずに強引に性行為に及んだことや、誌面で公開されている「精子の活動が著しく低調」だから避妊具が不要だった、との彼女への弁解メールの存在は否定できていない。実際に逮捕状が取り消しになったかどうかとはまた別の問題で、仕事面で自分を頼りにしてきた女性を、自分の権限を乱用して性行為に持ち込んだ暴挙をどう考えているのか。あくまで「合意の性行為で、犯罪ではない」と捉えているのだろうか。彼女は、検察審査会に不服申し立てをする予定だという。

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「議員削減と女性活用の方が『ビッグイシュー』であると言われても、ピンとこない人が多いだろう」

(山口敬之『総理』幻冬舎文庫)

 『週刊新潮』記事において、「今国会で性犯罪の厳罰化を柱とする刑法改正案が提出されていますけど、性犯罪の捜査に関しては最初から被害者に諦めを強いているのが今の社会の現実。その仕組みを少しでも変えていきたい」と、告発した女性。性犯罪刑法の改正については3月頭に閣議決定されており、現在、迷走したまま強引に審議が進んでいる共謀罪よりも早く閣議決定されているというのに、後回しにされている。法務大臣ですら全貌をつかめていない、だけど長年の悲願であった共謀罪を、国民の疑念が膨らむ前に通しちゃいたいと意気込む政権は、性犯罪刑法の改正を軽視している。

 現在、衆議院で審議されている共謀罪だが、参議院で同等の審議時間を確保し、なおかつ審議入りに必要な安倍首相の出席を考えれば、首相がG7サミットのためにイタリアへ行く前に参院で審議入りさせたい。そのために逆算をして18日に衆院で採決させる予定で進めている。議論が深まった・深まっていない、のレベルではなく、誰もその全貌を知らない、という中で採決に持ち込もうとしているのだ。

 安倍首相は、2015年、自民党総裁選に無投票当選しているが、彼に唯一対抗しようとしたのが野田聖子だった。彼女は取り組みたい政策課題として「国会議員の定数削減と女性活用」を挙げていた。安倍にひっついてきた山口は、この野田の提言について「安倍が実際に成し遂げたり取り組んだりしているものと比較して、議員削減と女性活用の方が『ビッグイシュー』であると言われても、ピンとこない人が多いだろう」(『総理』)としている。言わずもがな、ビッグイシューである。

 国の大きな動きに「いっちょかみ」するのがジャーナリストの役割だと思っているのだろうか。この手のスキャンダルはワイドショーで重宝されるトピックだが、彼の事案について、詳しく報じようとするワイドショーは少ない。知名度の問題もあるのだろうけれど、安倍政権に近いジャーナリストというよりも、安倍政権から派遣されたジャーナリスト、という言い方のほうが正しいくらいなのだから、その社会的影響力、そして女性が懸命に告発したことを踏まえて、メディアはもっと取り上げるべきではないか。まさか「ビッグイシュー」だと思っていないのだろうか。

 山口はFacebookの弁明を、「週刊新潮に都合が悪い記事が出るから海外に逃げたなどという指摘は、全く事実と異なります」と締めている。だが、週刊新潮の記事を読んでも「海外に逃げた」などという指摘は書かれていない。これは、「全く事実と異なります」という一文で締めたいがための文章ではないのか。GW中に海外にいたことなんて、誰も問うていない。潔白ならば、他に説明しなければならないことがたくさん残されている。

武田砂鉄

ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論──テレビの中のわだかまり』がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「SPUR」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。

@takedasatetsu

http://www.t-satetsu.com/

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