何日かして、再びしぇー子に会った。やはり出版関係の友人がやっているバンドのライブを見に行ったら、そこに客で来ていたのだった。「あー笹王さんだー。」オープニングのバンドが知り合いだとのことで、最初から来ていたらしいしぇー子はすでに酔っ払っており、何杯目かであろうジントニックの入ったプラスチックのカップを片手で危なげに持ち、もう一方の手で、親しげに俺の腕に触れてきた。バーカウンターにもたれながら、曲に合わせてゆらゆら体を揺らすしぇー子の姿をチラチラ気にしながら、友人のバンドのステージを見終え、楽屋への挨拶もそこそこに、俺はフロアのしぇー子を捕まえるとライブハウスから連れ出し、タクシーに乗り込んだ。しぇー子はあっさりと、再び俺の家までついてきた。
家に着くやいなや、部屋の中央のセミダブルベッドの端にしぇー子を座らせ、キスをした。柔らかい唇の感触と、髪の匂いで薄れかけていた前回の記憶が蘇った。舌を入れようとすると、するっと唇を離され、「あたし着替えたい。」としぇー子が言った。俺はまた Tシャツとスウェットを持ってくると、T子に渡した。T子は、前回のように着替えに行くのが面倒なようで、「向こう向いててね」と言いながらその場で着ていたサマーセーターを脱ぎ、ブラジャー姿になってTシャツをかぶった。その状態でブラジャーを外そうとしたが、酔っ払ってうまく外すことができず、体の半分ほどのところで引っかかったTシャツの下から白い大きな乳房とピンク色の形のいい乳首がまろび出た。「しぇー。おっぱい見えた?」と言いながら例の下がり眉で俺の方を振り返ると、恥ずかしそうにシーツの間に潜っていった。そしてシーツの中にスウェットを引っ張り込むと、しばらくもぞもぞしたのち、履いていたジーンズをシーツの外に出した。
俺もシーツに潜ると、しぇー子の体を思い切り抱きしめた。「しぇー、苦しいよ」という口を俺の唇で塞ぐ。再び舌を入れようとするが、しぇー子は歯を食いしばってそれを許さなかった。
「だめ。」
「なんでだよ。」
「眠いし、酔っ払ってるし。そういう気分じゃないし。」
「俺がこういうことするのわかってただろ。なんでうちまでついてきたんだよ。」
「うーん、なんでだろ。あたし笹王さんち好きかも。」
「なんだそれ。俺本人のことは好きじゃないの?」
「まだわかんない。」
しぇー子の眉が下がった。やっぱりこの女は俺を翻弄しようとしている。俺はしぇー子から体を離した。
二人ともしばらく黙っていたが、やがてしぇー子が口を開いた。
「ねえ、お話して。こないだみたいに。」
「眠いんじゃないのかよ。こないだも寝てたじゃんかよ。」
「ちゃんと聞いてたよ、こないだ。」
「うそつけ」
「聞いてたよ。性欲の強い王様が、海に向かってオナニーして、それを人魚達が見てて、産卵して。王様も潮吹いて。」
「…聞いてるな。」
「面白かったよ。ねえ、だから、またお話してよ。」
しぇー子は体の向きを整えるように仰向けになると、シーツを肩の上まで引っ張り上げ、絵本の子供が眠るような姿勢になって、目をつぶった。
俺はしばらく考えたのち、話を始めた。
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