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【官能小説】セミダブル千夜一夜/第三夜 逃げる乳首

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(C)河井克夫

(C)河井克夫

しぇー子はまた家にやってきた。深夜にメールがあり、飲みに行って帰れなくなったので泊めて欲しいということだった。もはや、当然のような顔でやってくるので、これは一種の「彼女ヅラ」ではないかと思う。俺も当然のように、やってきた彼女にキスをし、体を求めるが、しぇー子は相変わらずそれを許そうとはしないのだった。

しぇー子は、やはり当然のような顔で俺の家のTシャツとスウェットを着て、当然のように俺の家のセミダブルベッドに横たわっている。俺も彼女の隣に横たわり、彼女に覆いかぶさると、その胸に手を伸ばした。

「だめ。」
「だからなんでだよ」

「俺のことが嫌い?」
「嫌いだったら来ないよ。」
「じゃあ、なんで」

「ねえ、『俺』っていうのなんで?」

 急に言われ、俺は戸惑った。

「え?」
「『ぼく』とかじゃだめなの?」

なんだそれ、と思った。そして、そういえば俺は、いつから俺のことを俺と呼ぶようになったのだろうと一瞬考え、いやそんなことはどうでもいい、やはり俺はこの女に弄ばれている。と考え直し、しぇー子の顔を睨むと、しぇー子はいたずらっぽく微笑んでいる。

ついまた、しぇー子の手の内に入ってしまった俺は、その笑顔を睨みつけたまま言った。

「…ぼくのこと、嫌い?」

とたんにしぇー子は笑い出した。

「ぎゃははは、やだー、すごい女々しい~。」

女々しくさせてるのは誰だ、とまた俺は腹を立てたが、なぜかしぇー子のこういう返しに乗ってしまうことに喜びを感じる俺もいた。俺はなおも重ねた。

「あたしのこと、嫌い?」

しぇー子はなおも笑って、言った。

「ぎゃははは、それいいね。かわいい。」

「あたしのこと嫌い? ねえ! 答えて!」

言いながら俺はしぇー子の胸をまさぐる。しぇー子はまた腕でそれをガードしながら言った。

「やめてやめて。いま、生理前で、乳首張ってて痛いから。」

俺は、慌てて手を引っ込めた。

「あ、そうなの?」
「うん、眠いし。」
「眠いのはいつもだろ。でも、あれじゃないの? 生理前はむしろしたくなるもんじゃないの?」

いやらしいな俺、と思いながら、そう言って恐る恐るまた手を伸ばしてみた。

「えー、そういう話も聞くけど、あたしはどうかなー。」

しぇー子は俺の手を退けながら、またシーツに体を潜り込ませた。

俺は気を削がれ、伸ばした手を引っ込めると、自分のあごの下をぼりぼり掻いた。しぇー子は顔の半分をシーツに埋め、黙っていたが、しばらくすると

「ねえ、またお話ししてよ。笹王さんのエロ話、あたし好きだよ。」

と言った。

「俺より、俺の話のほうが好きってか。」
「あたしの、でしょ。」
「あたしより、あたしの話のほうが好きっていうの?!」

 しぇー子が笑い転げた。

 俺は「あたし」になって、乳首の話を始めた。

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バーキン滝沢

ライター。3度の飯より占いが好き。牡羊座、四緑木星の水星人マイナスです。

河井克夫

漫画家、イラストレーター。官能小説の挿絵を描くのが夢だったので、ご指名いただいて光栄です。近著「女神たちと」「久生十蘭漫画集」(ともにKADOKAWA刊)

twitter:@osuwari

久生十蘭漫画集 予言・姦 (ビームコミックス)