“ビッチ”という言葉は誰彼かまわずセックスをやりまくっている女性だけをさすものではなくなっています。複数の男性に粉をかける、気を引くだけ引いておいてフる、本命にフラれた時用のキープ君を複数つなぎとめておく、などなど「自分に都合の良いように男を利用する」態度は、おおむね“ビッチ”認定されるものだと思います。露出度の高い扇情的な服装で歩いているから“ビッチ”だなんてことはないわけですね。人は見た目が100パーセント? いやいや見た目じゃわからん。
でも、どうして“隠れビッチ”は、そんなふうに複数の男性の恋心を搾取しようとするのか? 相手を傷つけている自覚はあるのか?
清楚に見せかけておいて実は……な“隠れビッチ”だった過去を分析し、10年にわたる克服の軌跡を描いたコミックエッセイ『“隠れビッチ”やってました。』(光文社)の著者、イラストレーターのあらいぴろよさんは、かつての自分の「ありのまま」を見つめた結果、「ありのままの自分をまず変えないとダメだな」と気付いたと言います。
あらいぴろよさんは20~23歳の数年間、知り合った男性たちみんなに気がある素振りをして自分を好きにさせ、告白されてフるという悪魔的所業を繰り返していました。どうしてそんなにモテたのかというと、自ら積極的にモテに行っていたから。
基本的なファッションは3パターン(カジュアル・女子アナ・堀北真希)、露出はせず「透け感のあるサラサラした素材」「寒色系」「靴や小物にこだわる」を心がけたシンプルな洋服を相手によって着まわし、本来の性格とは違う「おしとやかで清純な小動物系」の自分を演出。「さ行でホメて」、「は行でリアクション」「ほほえみ」のテクニックを駆使し、あらゆる男性の恋心を次々にゲットする無双ぶりだったそうです。自称“男性からチヤホヤされるのが生き甲斐なクズ女”。ちなみに“モテ”と“カラダ目的”は異なることを心得ていて、性的な関係は誰とも持たずに、告白されたらゲームセット、と決めていました。
こう言っては失礼ですが、ぴろよさんは大変可愛らしいけれども、飛びぬけた美人とか目立つタイプではありません。モテのコツは、あくまでも「男ウケの良さそうな服装」「男ウケの良さそうな性格」に擬態することだと思い知らされます。ただし、これは自分の好きな相手に好かれるテクニックではなく、どうでもいい相手からモテるためのテクでしかなく、ぴろよさん自身、「本性を見抜かれそうな賢い感じの男の人には近付かないようにしていた」とのこと。
「自分に自信ないからってね 男に逃げるのやめなさい 女じゃなくて、ちゃんとした人間になりなさい」
「心の隙間に男をねじこんでるだけじゃん 遊びじゃなきゃ依存してもいいわけ?」
「あんたって本当にコンプレックスの塊よね あんた自身を肯定させるために彼氏を利用してるだけでしょ」
擬態していたのも、恋心を搾取していたのも、結婚に至った夫を束縛し怒鳴り散らしていたのも、原因は自分にあった。友人たちから容赦ない指摘を何度も受けて、少しずつぴろよさんは内面に目を向けていきます。
さて、彼女はいかにして“隠れビッチ”な自分から脱したのでしょうか。現在は結婚7年めであり一児の母となったぴろよさんに、お話を伺いました。