産後うつの時期に描き続けた
――『“隠れビッチ”やってました。』って、ライトなコミックエッセイだと思って読み始めると、とんでもないことになりますよね。途中からすごく重いタッチになりますし、否応なく読者も自分自身に向き合わされます。描いていて、つらかった場面はありますか。
あらい 1章と最終章を描くのが特につらかったですね。1章は自分が1番グズグズな隠れビッチだった20歳そこそこの時期を描いているので、その当時に関わった人たちへの申し訳なさと、自分の幼稚さが腹立たしくて苦しくなりました。10年近く前のことなので、薄れていた記憶を思い出す作業も大変でした。最終章は、自分のもっとも汚い部分を探っていかなければいけないので苦しかったです。
――隠れビッチ化した原因が、生い立ちにあると。実父から理不尽な暴力を受けて育って、でも実母はそんな実父を愛していて離れられないし……という。そういった生育環境で、自分がどう歪んだのかを最終章では深くまで掘り下げていて。
あらい 光文社の担当編集の方が、グイグイくるんですよ。ほんと篠山紀信さんみたいに「いいよいいよ~、ここもっと掘りさげてみようか」って。じゃあ、もう少し描いてみようか……と、ちょっとずつ追加してるうちに「ヤベ、描きすぎたな」って。でも、自らの被虐待経験まで掘り下げていかないと、なぜ隠れビッチになってしまったのか、そんなに愛に飢えているのかの説明がつかないので。
実は最初はもっとキレイにまとめたストーリーの予定で、隠れビッチだったけど素敵な旦那様と出会って結婚して、子供も産まれてキャッキャ☆ウフフみたいな。そのネームを読んだ編集さんが、「なんですかこれ。誰もこんなの読まないと思います」とバッサリで、確かに自分でも「こんなの読まねえな」と思ったので(苦笑)、どんどん書き直して……結局、最初に声をかけていただいてから、完成まで2年半くらいかかってしまいました。
――お子さんはもうすぐ3歳ですよね。ということは、出産直後から育児しながらこの作品を描いていたということでしょうか。
あらい そうです。当時は産後うつで文字もロクに読めなかったり、文章が前後で合わなくなったりしてたんですけど、逆に、そんな極限状態だったからここまで描けたんだと思います。産後、自分が親になってみて、かつて親から受けた嫌な記憶、悪い出来事がフラッシュバックするようになっていたので。「100%今しか描けない!」という状況でした。