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聞き上手のコツは、真剣に話を聞かないこと/利重剛×枡野浩一【2】

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利重さんと枡野さん

利重さんと枡野さん

 道を歩いているとき、なぜか警官の「職務質問」によくあうという利重さんと枡野さん。そこから、人には「左翼顔」「右翼顔」「パンク顔」があるという話に(ちなみに利重さんは「左翼顔」。枡野さんが「○○○○顔」なのかは、この後、第5回の対談で明らかになります)。利重さんの最新エッセイ『ブロッコリーが好きだ。』から枡野さんが大好きな言葉たち――≪“悲壮感”というものは快感――≫≪聞き上手の人は、けっこう話を聞いていない――≫などを読み上げながら、対談は弾んでいきます。

▼「あなたが好きだ」と言われるより、同じものを「好きだ」と言い合える関係のほうが/利重剛×枡野浩一【1】

「僕はそこになにか人生の神髄を感じた」(枡野)

枡野 ほんと、職務質問によくあうんですよ、僕。あまりにも会うので、去年まで2年間お笑い芸人活動をしていたんですけど、“僕が職務質問にあっているネタ”があるくらいなんですよ。職務質問にあったときに警官の人に僕が「あなた、僕より年下でしょ?」って言って説教し始めて、離婚について語りはじめるってネタなんですけど。そのネタはR-1グランプリの2回戦までいったんですけどね。でもそれくらいよく職務質問にあうんです。

利重 なにを疑われてるんですかね?

枡野 まぁどうなんでしょう。リュックとか背負ってると怪しまれるらしいんですよ。

利重 でもさっき控え室で話しましたけど、僕、顔が「左翼顔」なので……

枡野 「左翼顔」(笑)。

利重 だからね、ちょっと政治的な方向で疑われるんじゃないかと。なんかこいつ、いきなり殴りそうだな、人を刺しそうだな、泥棒しそうだなっていうんじゃなくて、「どうもコイツは思想的に危ないんじゃないか」とか。そういうふうに見られる感じなんですね。それでいえば、枡野さんはどういう風に疑われているのか……。

枡野 どういう風なんだろう? 「右翼顔」っていうのもあるんですか?

利重 あると思います。

枡野 「パンク顔」みたいな顔、町田町蔵さん【注】みたいな顔かなぁ。

利重 ああ~。

枡野 でも確かに僕も、「左翼顔」といわれると、そうなのかなぁ。

利重 そういう感じもしますね。

枡野 スキンヘッドだったときはよくお坊さんと思われていましたね。「宗教関係の方ですか?」っていわれてました。

利重 ああ~、なるほどねえ。

枡野 (僕を職質する)その方たちに「どういう気持ちでするんですか?」って聞いてみたこともあるんですよ。「どうして僕だったんですか?」って。

利重 ほおほお。

枡野 それは新宿2丁目だったんですね。だから「もっと怪しい人、あそこにもあそこにもあそこにもいるじゃないですか? なんで僕だったんですか?」って聞いたけど、教えてくれなかったですねえ。

利重 あれ、教えてくれないですね。さすが国家権力ですね。最後まで絶対に言わないですね。

枡野 ほんとに。それであまりにも言ってたら(警官が)5人くらい来ちゃって。

利重 あれ、不思議ですよねえ。必ず人数が増えていきますねえ。

枡野 人数で負かせようとするんですよねえ。

利重 ええ。

枡野 まさか、職務質問ネタでこんなに話に花が咲くと思わなかったんですけど(笑)。そう、でも、なんでしょうね、人に与える印象の問題ですよね。あ、そうだ、利重さんのエッセイでもうひとつ印象に残ってるエピソードは、海外に行ったときに(見知らぬ男に)ナイフを出されて、「あ、それいらないから、買わないよ」っていう態度をとったら助かったっていう……

利重 アメリカのツーソンかなぁ。ナイフ出されて、なんとかかんとかって言うから、それを売りつけにきてるもんだとばっかり思ってね、「いらないから、俺、旅行者だからさ」って断って。それでホテル帰ってから、「あれ? 俺、もしかして強盗に遭ってた……」

会場 (笑)

利重 「いらないよっ!」って言いきったら、向こうもビビッったんだよね。

枡野 その堂々とした態度に(笑)。

利重 そうそう。しばらく俺の顔をポカーンと見てたもん。それでむこうに行っちゃった。や~でも後で考えたら「危なかったんだなぁ~」っていう。

枡野 僕はそこになにか人生の神髄を感じたんです。そこであわてずに「いらないよ」って態度をとれることが……。ま、たまたまだったのかもしれないけれど、本当に人を生き延びさせたりとか、命に関わることっていうのは、そういうことなのかなと。

利重 やっぱりアジア人は特に気持ちが悪いんでしょうね、西洋人からすれば。得体が知れなくてね。だからたぶん向こうも、「こいつには関わっちゃいけない!」って……

枡野 思ったんでしょうね。かえってヤバいんじゃないかと。

利重 でしょうねえ。

枡野 それで、利重さんの今回の本(『ブロッコリーが好きだ。』)もすごく好きで、僕は短歌を作っているので、短い文章の本がそもそも好きなんですけど、とてもいい本です。(本に書かれてある)どの言葉も好きだったんですけど……

利重 ありがとうございます。今日はほんと褒められて、照れくさい感じです。

枡野 ちょっと本から(利重さんが書かれている言葉を)いくつか紹介させてもらいます。まず最初に、こちら。

<悲愴感というものは、快感の中でもかなり上位なのだと思う。>p.15

利重 はい。

枡野 (これを読んで)自分の本も悲壮感でいっぱいだけど、それは快感に浸ってたのかなぁって。

利重 あ、確かに(枡野さんの本は)そうだ! あははは(笑)。

枡野 恥ずかしい気持ちになっちゃいました。だから、この本を読んで思ったことは「自分が恥ずかしい」ってことで。「こんな立派な本を書いてる人と会うのが恥ずかしい」って思っちゃいました。

利重 でも、ある快感がありますよね。自分がそれ(悲愴感)にガーッって入っていったときに、ふっと気がつきますよね。「あれ? これもしかして気持ちがいいんじゃねえか?」って。

枡野 そうですねえ。自分は気持ちいいけど、読んでる人は途中でイラッとするわけですね。

利重 途中、イラッとしますね(笑)。

枡野 そうですかあ。特にどこがイラッとしますか?

利重 だからやっぱり、繰り返されるとこですよね。

枡野 僕、繰り返しが多いんですよね。

利重 必ず繰り返していくから、やっぱり狙いなのかなぁと思って、とにかく最後まで読まなければと思ったんですけど。

枡野 ありがとうございます。

利重 それでね、(枡野さんの文章には)離婚のネタ……ネタって言っちゃいけないか(笑)。離婚の話題……が必ず毎回入るじゃないですか。だから、そこが、まぁ、不思議な方だなぁと。同じことをずーっと繰り返し書くのがお好きなんですね?

枡野 そうなんです。

利重 面白いなぁと思うのが、説明を細か~く書かれるじゃないですか、エッセイの場合。でも短歌は短い言葉で想像力をぶわ~って膨らませるものだったりするわけじゃないですか。

枡野 おっしゃる通りです。

利重 その両方が(枡野さんの中に)あって、エッセイになると急にこっち(繰り返しと細かい説明)になるというのは……これはやっぱり狙いなんだろうなって思ってしまうんです。

枡野 みんなからは「短歌だけ書いてれば素敵な人なのに」と言われます。

利重 ええ、ええ。

枡野 (笑)

利重 でもどうしても書かずにはいられないんでしょうね。

枡野 もしかしたら、こういう性質だから、短歌という短いものに憧れたのかもしれません。パンッ!と自分の気持ちのある部分を切り取ることで割り切りができることが、自分にとって救いの器だったのかもしれません。

利重 ほら、「短い文」っていうのは、どのように受け取ってもらってもいいわけじゃないですか?
たとえば自分には実体験があって、それを短い文で表現したものが、読む人はまたその人なりの実体験にあわせて感動したりとか、想像してくれたりとかしてくれるわけじゃないですか。直接のメッセージをポーンと放って伝えて受け取ってもらってというんじゃなく、想像力をお互いに返しあってコミュニケーションしていくもんじゃないですか、短歌って。

枡野 はい。

利重 でも…それの一方で……(歌人である枡野さんは)“自分の書いた言葉を思うように受け取ってもらえなかった”ってことを、ずーーっと書いてるっていう……。これが、面白いんです。

枡野 なんででしょうねえ。短歌はどう解釈されてもわりと気にしないんですけど。でもなんか“散文”になると急に、「いや、そういう意味で書いたんじゃないんです!」って言いたくなっちゃうんです。

利重 謎ですねえ。なにかすごく大っきいものがあるんでしょうね、そこに。

枡野 恐ろしいですねえ。でもそんな風に(僕のことを)言葉にしてくださった方は初めてかもしれません。言われてみれば、ほんとその通りなんですけど。なんで短歌はこんなに端的なのに、(文章になると)こんなに説明を長く書いちゃうんだろうと。

利重 それで、人間の常で、言葉を増やせば増やすほど、絶対に言いたいことは伝わらなくなっちゃうじゃないですか。

枡野 ほんとですね。しかも読まなくなっちゃいますもんね。「もういい! わかったよ!」って心を閉ざされちゃいますよね。

利重 くくく(笑)。

枡野 そう考えると、逆方向のことしてますよねえ。う~ん……。

利重 だから枡野さんは、「俺はそうやって、行きつくところまで行った景色を観たいのだ!」と延々と書き続けているのかなと。その点は興味がつきないです。

枡野 僕自身は言葉が少なく作ってある本が大好きで、自分自身でもそういう本を多く作ってきたんですけど、でも、長いものを書くとこうなっちゃうんですよねえ……。隙間のない書き方をしちゃうというか……。自分でもわかんないんです。

利重 ふふふ(笑)

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。二村ヒトシさんとのニコニコ動画番組『男らしくナイト』(第1回は9/24夜)、中村うさぎさんとのトーク企画『ゆさぶりおしゃべり』(第1回は10/7夜)など、最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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