40代女性は婦人科にフレンドリーに行ける環境を!
――生理が乱れたら、すぐに婦人科の門を叩いたほうがいいと?
「はい。40代になったら、女性はかかりつけの婦人科を持っておいたほうがいいと思うんです。なにか異変があったらすぐに相談できるように。更年期になって初めて婦人科に行くっていうのじゃなく、婦人科にフレンドリーに行ける環境を作っておいたほうがいい」
――40代後半から体調が悪く、50歳からは生理も乱れはじめた。そんな悠子さんがいよいよ婦人科を訪れたのは……。
「53歳のときでした。なぜもっと早く行かなかったんだろうと、いまは後悔しています。どの医者に行けばいいかの判断も、辛さのピークが来る前、頭がはっきりしている状態に決めておいたほうがいいですし。早めの婦人科受診は時間を無駄にしなくてすみます」
――いま、更年期の治療はどのように?
「HRT(ホルモン補充療法)をしています。黄体ホルモンの錠剤を飲んで、ジェルを塗っていますね。私の場合は53歳で病院に行ったときは完全に閉経していました」
――ホルモンを体に入れるという治療に抵抗はなかったですか?
「生理が乱れはじめたとき、50歳前後はヨガに取り組んだり、なるべく自然な形で更年期を乗り越えようって考えてました。でも53歳でホントに這うようにして婦人科に行った時は苦しすぎてもう四の五の言ってられなかった。婦人科でホルモン値を測って『ホルモン補充しますか』ってお医者さまに訊かれたときには『それで楽になるなら! いますぐホルモンをください!』」と、藁にもすがる思いでした」
――HRTをスタートして体や精神面に変化はありました?
「劇的にいろんな症状が改善されました。不眠、イライラ、不安がすーっと収まって。収まってからちょっと悔しいなって思いましたもの。こんなに効くのなら、なぜもっと早くにスタートしなかったのかって」
――実は私も、今49歳なのですが、3カ月前からHRTをはじめているんです。それまで肩こり程度しか特に自覚症状はなかったのですが、ホルモン値を測るとエストロゲンの値が相当低くって。それで、まだ元気だけれど、QOL(生活の質)をあげるためにも今のうちからスタートしておこうと考えたんです。
「それはとってもいい選択だと思います。そういう選択があることを、ぜひ多くの人に知ってほしいなと思いますよ。私みたいにヨロヨロになって婦人科に行くよりも、頭がクリアな時期に行って、先生といろいろ話をしたほうがいいです! これは声を大にして言いたいです、女性の皆さん、症状が重くなる前に婦人科に行きましょう!」
――これは仮定の話になりますが……。もし50歳ぐらいでHRTを始めていたら、週末婚の彼と結婚していたと思いますか?
「ないと思います、むしろ早くにHRTをして頭がクリアな自分だったなら、もっと早い段階で別れていたんじゃないかな。不安ですべてがネガティブな状態だったから、結婚も別れもどちらにも決められずズルズルしていたんだと思います。決して好きで好きで一緒にいたわけでもないと、いまなら分かりますから。そのくせ、結婚を断ったときに向こうにすごく怒られて去っていかれて、それなりにダメージをうけて気分が落ち込んでしまった。ほんと無駄な時間でした。彼と過ごしていたあの最後の2年はいらなかったなぁ」
――ホルモン療法はまだしばらく続けようと思われていますか?
「いまの主治医には5年続けて、その先どうするかはその段階でまた話し合いましょうと言われています。でも私は完全にストップする気はないんです。量は少し減らすかもしれませんが、急にすべてやめちゃうという方法は選択しないつもり」
――私が通院しているクリニックでは70代でHRTを続けている方もいらっしゃいます。更年期は抜けても、QOL向上のための選択でしょうね。
「私も更年期はもう抜けたんだと思うんですよ。この1年、精神的にも体力的にもぐっといろいろと楽になって。もちろんホルモンを補充している効果もあるとは思うけど、自分の体のことなのでなんとなくわかるんです、『私元気になった、もう更年期は終わり、次のステージに向かうよ』って体が知らせてくれている気がするんです」
――たしかに今お会いしていても、艶やかでお美しくってとても57歳には見えないですし。壮絶な更年期障害と闘ってこられた方のようには思えません。
「ありがとうございます。昔、母が『60歳過ぎたら女の人は楽しいよ』って話したことがあるんですけれど。その頃は辛さのピークで『何それ? 意味がわからない』って思ってました。でもいまそれがすごくよくわかる。私の50代は嵐のように大変な時期だったけれど、そこを抜けたらすごく元気な60代を過ごせそうな気がしています」
「一生女として見られたい」の呪縛から抜け出せたことで人生が楽に
――この先はどうですか? 新しい恋はもうしたくないですか?
「それがいま20歳以上年の離れた男性に恋してるんです。あ、年上じゃなく年下ね(笑)」
――さすがですね~。ということはお相手はまだ37歳!
「そうです。その結婚前提の元カレと別れて疲れ切っていたときに、仕事先が主催する集まりがあって。そこで偶然となりに座ったのがその彼。実はね、HRTを始めたのも、その彼と出会ったから、というのもひとつの理由」
――恋するパワーですね!
「恥ずかしながら(笑)。若い男子を好きになって、改めて自分を見てみると、更年期の苦しさで随分老けてしまったなと。でも好きになったのは親子ほど年の離れた若い人でしょ? 老けてる場合じゃない、元気にならなきゃ、だから先生、ホルモンをくださいって(笑)。そんな下心もあったから究極にしんどくってもクリニックに行けたの」
――いまその年下男子とはどういう関係なんですか?
「ふたりでお茶に行ったり、たまにご飯を食べています。もう4年近くその関係が続いてるかな。私、いままで男の人を自分から誘ったことなんてないんですけれど、むこうがとにかくおっとりとしておとなしい人なので、これは自分から言い出さないと進まないと思い、最初は私からお茶に誘い、いまに致ります」
――肉体的な接触はまったくなし?
「まったくありませんし、気配もないです。ただ何度か食事やお茶を重ねてから突然向こうが『ドライブに行きませんか』って言ってくれたことがあったんですね。それはもう嬉しくって舞い上がって。そのドライブデートの翌日にクリニックでホルモン値を測ったら、値がすごく上がっていたんです、先生が驚くぐらいに。そのデートで手さえ繋ぎもしなかったのに」
――また恋のパワー(笑)。触れ合いたいなって欲望を持つことはないんでしょうか。
「最初はくっつきたいなとか、触りたいなって欲はありましたけど……。最近はもうとにかく自分に自信がないから。あの人の前で服を脱ぐなんて想像だけでも無理です。出会って最初の2年は恋心も強かったし、ひとりで悶々としていたこともあったけど、最近はそこも脱しましたね」
――じゃあもうこのままでずっと茶飲み友達で……。
「特に57歳になった頃からは肉体面の接触はもういいかなって感じるようになりました。30代はセフレがいたほうが心が安定する、女冥利につきるなって思っていた私がこうなるなんて、自分でも驚きですけれど。いまは恋愛はしたいけど、肉体面はいらない。あ、でもセックスについては、前の週末婚の彼とのときからもう興味をなくしていたのかも」
――更年期女性は膣の萎縮から濡れにくくなったり、性交痛などの症状が出やすくなりますが、悠子さんはどうでした?
「それはなかったです。肉体的なことより私の場合は精神的な変化かな。セックスが嫌いじゃなかったのに、年齢を重ねて段々と性欲はなくなっていきました。前はセックスのない人生ってどんなに寂しいだろうと思っていたけど、今は気楽でいいわよって声を大にして言えますよ」
――そうなんですね~、私はまだその境地には達してないかな……。
「40代ならまだギラギラしないと(笑)。50代後半になってからじゃないかな、そう思うのは。自分の人生メスとしては不足がなかった、といま私は胸を張って言えます。女として見られたい、女として愛されたい、一生女じゃないとイヤだっていう思いがなくなってすごく楽になりましたよ。さっき話した女は60代から楽しいよ、っていうのはきっとそういう境地に達することができるからなって思います」
――自然にそういうところに着地できるものでしょうか?
「なれますよ、きっと。緩やかにいつのまにかそうなっている。女として見られることが心の支えのひとつだったけれど、いまはまったくそんなこと考えもしない」
――最後に更年期世代の女性に向けてなにかメッセージがあれば。
「月に1回生理があるだけでもハンディなのに、更年期で10年も辛いめにあう。やりきれないって思うことは私もしょっちゅうでした。でもいま更年期を抜けて思うのは、辛い思いを乗り切った経験は、きっとこの先の人生を生き抜いていける糧になるということ。高いところから何度も落とされるようなあんなにも辛い時期があったんだから、この先の老後は愉しまないと損だと心から思えるんです。ほら、老後は女の人のほうが圧倒的に元気でしょ? 緩やかに衰える男性よりも、女性は生きる覚悟が違うんですよ、きっと。更年期は元気で前向きなおばちゃん、おばあちゃんになるための必要な試練と思って踏ん張ってほしいと思います」
<取材を終えて>
恋をしたら女性ホルモンが増える――とてもよく聞く話である。だが医学的に根拠はあるのだろうか。筆者がかかりつけの婦人科医に確認したところ、医学的な立場で言うと、残念ながらそれは根拠のない噂であるにすぎないと言わざるを得ないようである。だが「医者ではなく個人的な立場で言うならば、あながちその説は否定できない」との見解であった。刺激やときめきはないよりもあるほうが人生は楽しいに決まっている。だからワクワクドキドキを体験した女性のホルモン値が上がることは、根拠はなくとも、100%否定はしたくないそうだ。人の身体は、ときに医学の常識を超えるような働きをすることがあるのではないかと筆者も思う。
恋をしてワクワクドキドキすれば“ハッピーホルモン”と呼ばれるセロトニンが分泌される。女性ホルモンが減少するとセロトニンも減少することは医学的にわかっているようだ。セロトニンは特に精神面に大きな影響を与えるホルモンであるため、減りっぱなしにさせておくわけにはいかない。となると、恋だ。と言ってもなにも相手はリアルな人間でなくたっていい。俳優や歌手、小説や漫画の中の人物にときめいたっていいのだ。それでセロトニンが増えるなら、こしたことはない。ワクワクドキドキは、女性ホルモンの量など気にする必要のない10、20代よりも、むしろ40代以降の女性にこそ必要なのではないだろうか。
<前編はこちら:愛され体質の元夫と決別、二児を育てながら初めて「女」になった――悠子さん・57歳、更年期手前までの半生。>
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