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ネット上に蔓延する『痴漢冤罪怖い』の空気を盛り立てるメディアの罪

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上野駅

Photo by OiMax from Flickr

 今春、電車内で痴漢を疑われた男性がその後線路に逃走する事案が頻発したことを受けて、痴漢冤罪の恐怖をうたう報道も増加した。messyではこれに関連して、『逃走=冤罪』と安直に結び付けてしまうことの不可解や、逃走したうちの一人が公判で実際には痴漢を認めたことを報じたが、いまだに『逃走=冤罪』論は根強い。そんな中「週刊現代」(講談社)が、ある逃走者に関する記事を掲載した。webにも転載され、拡散されている。

「JR上野駅「痴漢転落死」は超一流ホテルの支配人だった」

 今年512日未明に京浜東北線内で「女性の手を握る」行為をしたとして駅員に事情を聞かれた40代男性についての記事である。男性は駅員室から逃走し、近くの雑居ビルの屋上から転落死した。記事によればこの男性は『ミシュランガイド東京』にも名前が載っている「超一流ホテルの支配人であり、インバウンド部門のリーダー」だったという。また、被害を訴えた女性は「神奈川県警に勤務する30代半ばの女性警察官」であり、当日の目撃者によれば逃げた男性を追うために「駅員と女性が男性を追いかけて繁華街に入っていき」、間をおかず「警察官も走っていきました。パラパラとでしたが、総勢10人以上はいた」と、多数の警察官らが男性を追っていたのだという。

 記事中には「今でも思いますが、痴漢を疑われても、逃げなければよかった。でも追いつめられたのでしょうね。家族にも、会社にも迷惑をかけたくない。だから、逃げてしまった。その結果こういうことになってしまったのでしょう」という男性の父親を名乗る人物のコメントもあり、記事全体として痴漢をしたのではなく疑われたので逃げたというニュアンスが強い内容となっている。

 当然ながらこれを受けてまたもやネット上では『逃走=冤罪』論からの意見が上がっている。「疑われるだけで人生台無しにされることも考えてほしい」、「痴漢に間違われたら女を殺すしかないだろう」、「被害者と言い張る輩からの主張だけで逮捕してしまう」、「誰が30過ぎのBBAの手なんか好き好んで触るんだよ…」、「手と手が触れただけで痴漢扱いされたら、たまったものじゃない」などである。また「状況からして冤罪臭がプンプン」という意見もあった。

 だが記事には、男性がホテル支配人という責任ある立場の人間だったこと、被害者が神奈川県警の警察官だったこと、逃走直後に10人前後の警察官が後を追ったということは記されているが、実際に男性が本当にやっていないのかは書かれていない。仮名であるため前科の有無も不明だ。周辺の人物による「男性が良い人だった」というコメントはあるが、痴漢行為の有無については言及がなく、家族や会社に迷惑をかけたくなかったから逃げて「こういうことになってしまったのでしょう」という推測のコメントのみであるため「やっていないのに逃げた」ことを証明してもいない。よって、この記事をもって『痴漢冤罪怖い』と怯えるのは早計すぎる。

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