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高い歌唱&演技力で魅せる韓国版「スリル・ミー」、男同士のキスシーンにエロスが足りないのは、お国の事情?

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出演俳優ふたりのインタビュー。YouTubeより

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンターテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、時に舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 中でもミュージカルは、過激な性描写や辛辣な社会風刺、そして人間の本質の深い観察や考察を、音楽に乗せることで観客の心の奥深くまで届けるパフォーマンス。アメリカの聖地ブロードウェイで生み出された作品を中心に、世界の各地で上演される名作は、同じ脚本と音楽でもその国や地域の俳優が演じることでそれぞれ違った魅力を放ち、またその土地の文化をおのずと浮かび上がらせるものでもあります。

 ブロードウェイやロンドンのウエストエンドなど、欧米の最新作が日本で上演されるのが待ちきれないコアなミュージカルファンが近年よく足を運んでいるのが、韓国です。日本よりも早くアジア初演が行われることも多く、俳優たちの圧倒的な歌やダンスの技量は、言葉が分からなくても登場人物たちの心情を明確に伝える熱量と迫力にあふれています。

 同性愛関係にある男性ふたりのみが登場するミュージカル「スリル・ミー」も、そんな演目のひとつ。韓国では日本よりも4年早い2007年に初演し毎年上演され、今年の2月から5月には、歴代の人気キャストが顔をそろえた10周年記念公演が行われていました。

 韓国でのミュージカル観劇はいつもとても満足できるのですが、「スリル・ミー」ではひとつだけ、少し物足りない要素を発見してしまいました。今回は、そこから見えた韓国と日本の、ミュージカルと文化の違いについて考えます。

 2005年にオフ・ブロードウェイで誕生した「スリル・ミー」は、1920年代にアメリカで起きた、「レオポルド&ローブ事件」を基にしています。裕福な家庭で育ち優秀で前途有望な大学生だったふたりの青年が起こした誘拐殺人事件で、彼らは同性愛関係にあったとされています。

男同士の緊迫した「愛」と「憎」

 俳優は「私」役と「彼」役を演じる男優ふたりだけ、音楽もピアニストひとりだけの小劇場向けの作品で、日本では2011年に客席数が100程度の小劇場で初演。リピーターが殺到し、翌年には、大劇場の天王洲銀河劇場で再演されています。

 直近の日本版の2014年公演では、「私」役が歌舞伎俳優の尾上松也、「彼」役が元劇団四季の柿澤勇人らの組み合わせによるトリプルキャストで上演されました。演出を手掛ける栗山民也は、2013年には韓国公演の演出も行っています。

 「スリル・ミー」だけでなく、韓国のミュージカル上演は日本よりも公演期間が長いため、同じ役を複数の俳優が交代で演じるトリプルキャストやクワトロキャストがほとんどです。筆者が観劇した日の「私」役は、カン・ピルソク、「彼」役はイ・ユル。ともに韓国発のミュージカル「キム・ジョンウク探し」などに出演している実力派俳優で、07年の初演にも出演している組み合わせです。

 物語は、殺人の罪で収監されている「私」が、34年前に「彼」と起こした事件の真相を語る場面から始まります。幼いころから一緒だったふたりは法律家を目指して同じ大学へ進学しますが、「彼」は哲学者のニーチェに傾倒し、自分は特別な存在で超人であると信じるようになりました。超人であることの証明とスリルを味わうため、「彼」は空き巣や放火などの犯罪に手を染めていき、「彼」を愛する「私」は、「彼」の愛を得るために手を貸して深みにおぼれていきます。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121

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