夢子は考えた。仮に、マコトとホテルにしけこむとしよう。知らない人と密室でふたりきりになるのは怖い。盗撮された映像がネットに流出するかもしれない。部屋に入ったら仲間がたくさんいて輪姦されるかもしれない。ひょっとしたら彼は人殺しで、数日後、自分は遺体で発見されるかもしれない……。さまざまな恐ろしい妄想が頭のなかで広がったが、さしあたって気になることはひとつだった。マコトにメールで尋ねる。
「マコトさんは歯医者で定期検診は受けてらっしゃいますか?」
「受けてますよ!」
夢子は虫歯恐怖症で、虫歯菌を持っている男性と粘膜を合わせるのは、ごめんだったのだ。
コンドームを着ければすべての性病が防げるというものではない。「セーフ・セックス」などあり得ない。できるのは「セ―ファー・セックス」のみ。それでもこの計画を遂行したければ、性病にかかった場合は、治療するしかない。最悪殺される可能性に関しても、そうなったら怖いけど、計画のためなら仕方ない。性病で死に至っても同様、甘んじて受け入れよう。ここまでは割り切れた。
だが虫歯菌をうつされるのだけは我慢ならない! 歯医者の定期検診を受けていて、写真を見ても気持ち悪くならない男性なら、もうこれ以上望むことはない。夢子はマコトと会おうと決めた。
さっさとホテルに直行したいけど
ピル休止まであと2週間しかなかった。迷っている時間はない。夢子は早々に「会いましょう」とメールを送った。「会ったらすぐホテルに行ってもいいですよ」とまで打診した。するとマコトは、
「会ったらまず軽く飲みませんか。そしてお互いにNGだったら何もせず別れるのでも大丈夫ですよ」
と提案してくれた。なるほど、会って「イヤだな」と思われてこちらが断られる可能性もあるが、自分も断ってよい。そしてその際は恨みっこなしネ、ということか。見知らぬ男女が会う場合、昨今はこのようにスマートな取り決めをするのだな。
オイオイマコト氏、遊び慣れているんだな!? 合理的でいいじゃないか! 夢子はおっさんのように感心した。
だが男性嫌悪の夢子の感覚は一般とはかなり違っている。知らない男性といきなり性交するより、ふたりっきりで飲むほうがツラい。男性としゃべり慣れていないし何を会話していいのかわからない。さっさとホテルに行ってしまいたいというのが本音だった。
とはいえ、あまり「ホテル、ホテル!」とがっつくのも下品であろう。
「ご提案ありがとうございます! いいですね、まず飲みに行ってからにしましょう(^o^)/」
陽気さを装うために絵文字を追加して返事をした。こういうとき文字だけで返事できるのは便利である。