ビクビクしながら開始したものの、ヤリ目サイトの使用感は実に快適だった。なぜなら、ほんの数回のメッセ交換でまんまと男性に会う約束が取れたからだ。お互いの趣味や家族、これまでどのような人生譚など、夢子が話しにくい事柄は一切話す必要がなかった。
会ってセックスすればいいだけ。セックスするためだけに会う。夢子にとっては理想的なシステムに思えた。
ただ、自分自身が体だけの関係を望む人間だったことを知り、夢子はアイデンティティクライシスを経験したのも事実だ。自分は数秒前に初めて会った男性と性交ができてしまう人間だったのか? ほんとうにこんなことしていいのだろうか? という、ほんのりした罪悪感のようなものがあった。
だがこのような居心地悪さは、体の奥底からこみ上げる圧倒的な衝動のまえに雲散霧消した。ちなみに夢子の動力を生み出している衝動は、性欲ではなかった。では何か? と問われても、それは夢子自身にもさっぱりわからない。
「とにかく舐めたい!」という男たち
今回会うことを決めた男性は26歳、Qという名前だった。彼はメールの文面が比較的整っていたので選んだ。ヤリ目サイトでは一切の建前を排除したメッセージが届く。
「3Pしませんか?」
「オレはおしりフェチで、バックが好きです!」
「蒸れたまんこを舐めさせてください!」
アダルトチャイルドの夢子には常に人の言葉の裏を読む癖がある。そのせいでいつも人間関係に疲れてしまう彼女にとっては、ストレートな文面はむしろありがたかった。
「クンニが得意です。女性に気持ちよくなってもらいたいので、たくさん舐めさせてください」
と打診してきた男性が数人いた。なるほど。夢子だってどうせベッドをともにするなら気持ちよくなりたいが、自己評価などあてにならん。「自称クンニ上手」の男性全員に同じ質問を投げてみた。
「いままでクンニした女性から、どんな感想をもらったことがありますか?」
驚いたことに、これだけのシンプルな質問にも答えられない者がほとんどだった。「とにかくクンニが好きなんです! アンジェリカさんを舐めたいです!」としか返事がない。そういう人とは会っても対話できないだろうから、候補から外した。
少なくともQはこの質問に対し、いままで女性にいわれたという感想を書いてきた。彼を選んだのは、それだけの理由だった。ルックスに関しては選り好みをしている場合ではないから妥協した。メッセージの交換も2~3回程度で済み、心地よかった。