Qいわく「クンニがだいすき、とにかく舐めたい。たくさん舐めたい。舐めるだけでいい。挿入はどちらでもいい」とのことだった。
それでも約束の日が近づくにつれ再び気が重くなってきたのは、Qが「ストッキングを履いてきてください」と指定したからかもしれなかった。ストッキングなら手持ちのものがあったしこれ以上やりとりするのも面倒だったので「いいですよ」と返答してしまった。「このくらいは歩みよらなくては」と夢子は自分にいい聞かせた。無知だったからとはいえ、それは大きな間違いだったと夢子はのちに知ることになる。
今回は無防備に出ていくことはせず、待ち合わせスポットを遠くから監視した。Qと思しき男性はかっこよくも悪くもなく、中肉中背。特になんの特徴もない人で“真面目なサラリーマン”を体現したようなスーツを着ている。とりあえず彼が痩せ形だったので夢子はほっとした。小太りの男性が怖いからだ。
平凡を絵に描いたような、いわゆる「普通」で冴えないいでたちのQは無害な人に見える。きっと大丈夫だ。待ち合わせ時間ぴったりに小声で声をかけた。
自分に自信がなさそうな男・Q
「あの……アンジェリカです」
するとQはちょっと怒ったようにいった
「早く着いちゃったから、アンジェリカさんほんとうに来るか不安でしたよ~」
時間どおりなのになーー夢子がとまどっていると、急にQはこう尋ねた。
「僕で大丈夫ですか? 背が低くてすみません」
たしかにQは夢子より少し背が低かったが、アレルギーさえ出なければ男性の背丈などどうでもよい。むしろ彼氏もいない自分のような女と会ってくれて、感謝しかない。彼がなぜそんなことを気にするのか不思議だった。しかしホテルへの道中、Qは心許なさそうに何度も問う。
「ほんとうに僕で大丈夫ですか? ほんとうにいいんですか?」
そのたびに、
「大丈夫ですよ、私は背とか気になりませんし、Qさんは素敵ですよ!」
「イケメンじゃないですか!」
「私なんかで逆に大丈夫ですか?
「ほんとうにお会いできてうれしいです、ありがとう!」
などといってQを励まさなければならなかった。