桃 子:人の顔を見て「劣化している」「もう美しくない」と勝手にジャッジするのは失礼だし、下品な行為だと思います。著者の女性も、他人に対してそんなことはいわないと思う。なのに、女性がコンプレックスを持ちやすいところにあえて「劣化」という語を使う……これは呪いですよね。
ノジル:むしろ思考回路が劣化しているのかもしれない(笑)。ここでいう劣化は膣を「使っていない」から「干からびてカチカチ」になる状態を指していて、それによって冷え・便秘・姿勢・ヒップライン・子宮下垂・直腸・頭痛・肩こり……といったさまざまなところに悪い影響が出ると書かれています。で、膣をケアすればすべて解消できる、と。けど、これって何のエビデンスもないし、物事を単純化しすぎていて、ヒエトリ教が「冷えをとればすべて健康に」といい、子宮系女子が「子宮を大事にすれば人生すべてうまくいく」といっているのと同じですよね。
桃 子:不思議なのは、劣化劣化と騒ぎながら、疾患についてはほとんど言及がないんですよ。膣が干からびてカチカチになると性交痛が起きる、ともいっていますが、性交痛は子宮内膜症など疾患の症状かもしれない。その単純化を信じた人が、疾患に気づくのに遅れると罪深いですよね。それに女性だけに原因があって性交痛が起きるるわけじゃないのに。男性の身体や触れ方に原因があるケースだってあるのに、「痛いのは、膣が干からびてカチカチになったからよ!」って……。真に受けた女性は、いつまでもセックスで痛いままでしょうね。
ノジル:膣を頻繁に使えば劣化はしないという理屈ですが、だったらセックスワーカーの女性はむちゃくちゃ健康! ってことですよね。そんなバカな(笑)。第一、「使う」って何? と思っちゃいます。
桃 子:ここでいう「使う」って、セックスと出産だけなんですよね。あとマスターベーション。著者の女性は、それはしないらしいですが。でも膣って生理のときに経血を排出するし、ふだん意識しなくてもおりものを出して衛生状態を保っているし、ちゃんと機能しているんですよ。
ノジル:ただ老化するに任せるだけでなく、性器をケアすること自体は悪くないんですけどね。でもその方法として紹介されているものが極端。アーユルヴェーダに基づいたオイルケアについてはあとでお話しますが、膣トレのために翡翠の玉をいきなり挿入したり! ずいぶん痛い思いをされたようで……。
膣が干からびているから、ではない
桃 子:痛かったのはお気の毒ですが、それは「私の膣がカチカチだから」ではないですよね。この方、膣トレを「下品で浅ましいこと」と思いながらも、女友だちへの見栄から実践しることにした。でもエッチな気分にもなっていない、挿入前にクリトリスを刺激するなどして気持ちよくもなっていない、潤滑剤も使っていないという状況でいきなり異物を挿れたら、誰だって痛いですよ。
ノジル:病院の検診時に器具を挿れらたら痛いのと同じですよね。
桃 子:なのに膣が完全に干上がっていたからだと解釈するのって、ズレているとしか……。それ以前に、なんで翡翠!? これは著者の女友だちが用意されたそうですが、膣トレ用の道具を探して翡翠の玉を見つけるほうがむずかしい(笑)。そのためのグッズ、世界中でいっぱい出てるのに。
ノジル:自然、っていうのがいいんでしょうね。パワーストーン的なご利益を求めたかったのなら、ジェムリンガでも挿れておけば……ハッ! 私、「ジェムリンガのほうがマシ」って心境になってる!
桃 子:それほどこの本がトンデモってことじゃないですか(笑)。翡翠の玉のエピソードでも感じたんですが、著者の女性は性的なものへの忌避感が強いですよね。ご自身でも自覚されているのはわかりますし、性の捉え方自体は人それぞれ。世代的なセックス観もあるでしょう。だから、忌避感があるからダメといいたいんじゃないんです。でも「性器なんてさわれない!」「マスタベーションなんて!」といちいち大騒ぎするのを読んでいると、こっちにまで「性って恥ずかしい」というのが伝染してくるようで困惑するんです。