一般的に自然派療法や民間療法、代替医療などに巣くう〈トンデモ健康法〉に転ぶ人は、西洋医学への不信感を持っているパターンが多いものですが、同書の著者も見事にビンゴ。長年生理痛に苦しめられ、受診した婦人科で子宮がんと誤診され、結局肝心の生理痛は閉経まで改善されなかったことから、医者嫌いになったと書かれています。
そしてたつの氏に伝授してもらった膣ケアで、要手術レベルだった直腸瘤(ちょくちょうりゅう)が治ったと喜ぶ著者。ところがそれは医師の診断を受けたわけではなく、自分で膣壁を触ったときに発見したもの。つまりは自己診断です。会陰マッサージを続けていたら頑固な便秘も治り、指で触って確認できていた〈ぶよぶよした出っ張り〉が小さくなり、要手術レベルだったのに、とりあえず危機は脱出! なんだとか。
健康ネタ専門ではない桃子さんですら「民間療法だって、科学的根拠がないとはいえ数多くの経験の積み重ねによって、効果効能が謳われていますよね。でもこの方って、自分の経験だけで説を肯定させようとしてません?」と首をひねっておりました。まったくその通りで、ネット記事の小ネタレベルならギリギリありかな……というレベル。
個人的な体験談で効果効能を自信満々に広めるのもトンデモ界のお約束ですが、それなりにキャリアのありそうな編集者にそれをやられてしまうと残念すぎ~。一説では「頭のよい人ほど他人を信じやすい」と言いますが、このトンデモ落ちケースも、そのパターンか。そこに加え、おまたぢから(経血コントロール)や冷えとり健康法、産み分け引き寄せ自然なお産などに共通する、〈本来できないものも、コントロールしたい欲〉が、どっしり根を張っていそうです。
膣は恥ずかしく、出産は神々しい
そして、膣や子宮、骨盤物件お約束の〈出産ネタ〉になると、トーンのおかしさは加速します。途中までは、セクシャルな話にカマトトという言葉がしっくりハマるレベルでモジモジしていたのに、出産の話になると途端に荘厳なロマンティックモードになるのです。
〈自然分娩で出産しているときの女性は、女としての美しさの頂点にいる〉だの、〈蓮の花の中(膣のこと)から、胎児の頭が見えてくるのです〉だの、〈宇宙との一体感が味わえるような感動的なお産〉だの!
これは監修の助産師もしくは、文中に登場する〈三砂ちずる〉氏からまるっと影響されたものだと思われます。三砂氏の著作にそっくりな表現があるので、おそらく後者でしょうけど。
「日本の女性の膣が大変なことになっている!と煽っていますが、大変なことになっているのは著者なのでは。おそらくご自身の妊娠出産体験も、この助産師さんに出会うまでは不本意なお産とは思っていなかったような気がします。なのに彼女の話を聞いて急に、『自分が陣痛促進剤や会陰切開を行うことになったのは女性器が冷えていたからだったんだ!』みたいな雰囲気になっているんですよね」(桃子さん)
「お前の膣は、乾いてる!(だから不幸になるよ)」そんな呪いを振りまく魔女の罠に、まんまと掛かってしまうテンプレを知ることができる、貴重な体験談という見方もできそうです。これから妊娠出産を予定する世代から更年期を迎える世代まで、幅広い層の女性を〈膣系女子〉の道へと誘う本書は、この夏注目の〈呪いの書〉。百物語でネタに困った方は、ぜひご活用くださいませ。
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