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オナニーのおかずにしていたニコ生主と付き合ったら、布団になるしかなかった

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緑丘まこ

(C)緑丘まこ

関西から上京して3カ月頃の話。
私は、「マイクの男」と付き合っていた。

「マイクの男」は、いわゆるネットアイドルを生業にしている男で、端正な顔立ちをしていた。ネット上で22歳と偽っていたが実年齢は29歳だった。

その男の存在を知ったのは関西にまだ住んでいた半年前に遡る。

男の名前はユウタ(仮名)。マイクを片手に持ち、もう片手には酒。シラフから泥酔するまでをニコ◯コ生放送で配信していた。
陽気に泥酔していくイケメンの姿に私はすっかり魅了された。イケメンなのに変。面白い。私はユウタのファンになっていた。

ユウタは中性的な顔と体つきをしていてエロく、私はユウタをおかずにオナニーをよくしていた。

普段、オナニーのおかずにする対象は女性が定番の私にとって、イケメンといえど男性がおかずになるのはかなりレアだった。

 

この男を逃したくない……!

 

会ったこともないユウタに対して、私は恋心を抱くようになった。

彼女と同棲してても、動画配信は止めない

上京した理由はいくつかあるが、そのうちの一つは「関東圏に住む彼に会いたい」という気持ちからだった。

関西にいる頃からすでにユウタとはスカイプなどで連絡をとりあっていた。27時間連続でスカイプ通話したこともあるくらいの仲になっていた。

上京してからすぐに彼と飲みに行く機会をもうけ、私達は恋人の関係になった。

自称漫画家と言い張る彼は、私の六畳一間の狭っくるしいマンションに転がりこんだ。そこで彼は、ほぼヒモ化し、二人分の食料を私に買わせ、家賃も光熱費も払わずに生活した。

セックスは毎回早漏だったが、挿入されているわずかな時間はかなり快感で幸せに思えた。「かつてオナニーのおかずだったイケメン」に本当に抱かれている。そう思うだけで気持ち良さが倍増した。

ユウタは配信中毒だった。

マイクだけは大切そうに自宅から持参し
「放送する」  
と言いだすと何時間もパソコンに向かってぶつぶつと喋りだす。

「えーまたー? やだ」
と私がしぶると

「放送は俺の仕事なんだ! やめろって言うなら俺に息するな、と言ってるようなものだ」
ユウタはヒートアップする。私がユウタの放送を嫌がるのにはわけがあった。

なぜならば……

 

退屈だ。

 

「おまえ、布団かぶって動くなよ」

放送を始める前、ユウタが私に指図する。
いつものことだ。

六畳一間。ユウタがお自慢のイケメン顔をカメラ付きで放送するとなると私の逃げ場はベッドしかない。私はユウタが放送する何時間もの間、布団と一体化しなければいけない。

私はユウタが大好きだった。かっこよくて鎖骨がセクシーで早漏だけどセックスも最高に気持ちいい。

そんなヒモ男やめておきなさい、と周りに言われようが、漫画家と言いながら実は治験のバイトをしているとか(詳細の紙が部屋に落ちていた)気づいていようが、大好きだった。だから私はユウタに言われるがままに布団になった。

ユウタが配信中に視聴者から「きゃーイケメン」と騒がられている間、私は石像のように布団になった。

「え? 今布団が動いた?」

放送中、視聴者に指摘されたユウタ。

布団の中でぎくっとする私。

「こわいこと言うなよー」

うまく怪奇現象に結びつけ、私の存在をかくすユウタ。しかし、視聴者は鋭かった。

「女?」

ユウタが一瞬きょどる。視聴者に布団の中に女でもいるのではないか、とコメントで指摘されたのだ。

「ご想像におまかせします」

声色を変えることなくユウタは答える。

 

…………ユウタのその曖昧な返事にいつもストレスがたまった。

 

「なんで彼女いること話さないの?」
放送が終わると決まって私はユウタに聞く。そして定型文のようにユウタの返答も決まっていた。

「俺はみんなのアイドルなんだよ! それにこれは仕事なんだ!」

興奮気味にユウタは叫ぶのだった。
いつも、大切なものを守るような、必死の口調だった。

ふーん……。

ニコ◯コ生放送って、動画を配信するのに月500円以上かかるよねー……仕事なんだ、金払って仕事なんだ、ふーん……
皮肉はそっと心の中で飲み込んだ。

数カ月後、私達は別れを選んだ。
ほんの些細な喧嘩が原因で。

思い返すと、あの布団事件の後しばらく経って、夜中に急に「放送がしたいから」と言いだしたユウタに、私の家なのに外へ追い出されたっけ……。そして近所のネットカフェに行ってユウタの配信動画を朝まで見ていたっけ……。

なんで私はあんなにユウタに夢中になっていたのか今は分からない。
……きっと恋心なんてそういうものだろう。

(C)緑丘まこ

(C)緑丘まこ

緑丘まこ

兵庫県育ちのアラサー女。
漫画とゲームとオナニーをこよなく愛する。
センベロ居酒屋やレトロなレストランを発掘するのが休日の楽しみである。

@makoishappy777

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