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殺人シッター公判/私たちは「子供をおもちゃにする人がいる」前提で生きていかなければならない

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(C)高橋ユキ

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 20143月に埼玉県富士見市で発生したベビーシッターによる2歳男児殺害事件。逮捕された物袋(もって)勇治は同月14日、山田龍琥(りく)君(2)とその弟を預かり、龍琥君を殺害したとして殺人罪に問われている。しかし物袋が問われている罪はこれだけではなく、多くの乳幼児に対する児童ポルノ禁止法違反や強制わいせつ等でも起訴されていた。昨年6月から7月にかけ横浜地裁で開かれていた物袋に対する裁判員裁判の様子を、連続しリポートしていく。

第一回:『殺人シッター』と呼ばれた男の長い起訴状
第二回:2歳男児はなぜ死亡したか 真っ向対立した検察側・被告側の主張
第三回:乳幼児を預かるために被告人が画策した計画と、母親が夜間保育を必要としていた事情
第四回:引き渡し時、子供は「いやだー」「こわいー」涙をボロボロ流して泣いた
第五回:『未払い料金を回収するために子供を預かった』という苦しい言い訳
第六回:乳幼児たちの児童ポルノ製造等の行為は、実妹への長年の性的虐待ののちに始まった
第七回:乳幼児たちへの性的行為は「イジメによるトラウマのフラッシュバック」と説明
第八回:小児にわいせつ行為を繰り返していた男はかつて「シッターは天職だ」と語った
第九回:実妹の剃毛をした息子を見て見ぬ振りした父・乳児殺害事件を「事故だった」と言う母

※本記事は、小児の性被害および、児童ポルノに関係するwebサイトの被告の閲覧履歴について詳細な記述を含んでおります。

 

 長らく続いていた裁判員裁判も終わりが見えてきた。同年76日に行われた最後の被告人質問を経て、77日には論告弁論が開かれた。6日には、一連の事件を起こすまでの生活について改めて物袋に質問がなされている。重複するので割愛するが、前回の記事に記した、別の子供への大火傷の件について「すぐに通報しなかった」ことや、そしてその前には「無銭飲食」や「車からガソリンを抜き取る」などといった犯罪行為を働いたことがあるなど明かされた。

 その後、各事件の被害者の家族らによる意見陳述が行われた。多くは書面での陳述書を検察官が読み上げるというスタイルだったが、皆一様に、子を預かるシッターという仕事を悪用したことへの非難、そして「将来子供が、犯人にされたことの意味を知ってからトラウマになるのではと不安」ということを述べた。なかには、ガムテープや紐に怯えたり、暗闇を怖がる様子を見せるというお子さんがいることもわかった。

 終盤には、龍琥君とその弟のB君の母親による陳述も行われた。検察官による代読ではなく、実際に法廷で自ら陳述書を読み上げる。以前行われた証人尋問の時と同じく、傍聴席との間に遮蔽措置が取られ、その様子をうかがい知ることはできないが、母親は時折、涙で声を詰まらせながら、子供達への思いや事件について、しっかりと語った。

「長男は保育園に友人がたくさんいました。りっくん、りっくんと呼ばれて人気者でした。ディズニーのアニメが大好きで、お兄ちゃんの自覚も出てきて、弟にミルクを飲ませたりあやしたり、次男を抱っこして自慢げにしていたり、その成長が嬉しく、2人と笑って過ごせることが幸せで、生きがいでした。育児が嫌だ、面倒だと思ったことは一度もありません。

笑顔、困った顔……一生懸命な姿、笑顔で走る姿、たくさんの長男の姿を見ることができなくなりました。抱きしめてあげることも、そばにいてあげることもできなかった」

 母親がここまで語ったところで、傍聴席にはすすり泣くような物音も聞こえ始めたが、最も泣いていたのは、書記官のそばに座っていた司法修習生と思しき男性だ。涙を隠すこともせず号泣し始めた。

24カ月前の私はまさか子供が被害にあうと考えてもみなかったし、この世に被告のような人が存在することを考えたこともありませんでした。なぜ子供を守れず私が生きているのか、数日間預けっぱなしで知らない人に預ける感覚がわからない……という批判も向けられていました。安ければ誰でも良かったわけではないし、子供を預けてせいせいしていたわけでもありません。

以前預けていた夜間保育園に疑問を持ち、シッターを利用し始めました。最初に預かってくれたシッターさんはとてもいい人で、事細かく報告してくれました。別の女性のシッターさんも….(中略)シッターズネットでとてもいい人たちと接しているうちに、子供をおもちゃにする人がいることを考えなくなっていました。

長男を被告に4回預けたことがあります。一度小さなあざができていたことがありました。あのとき、もっともっと被告に言えばよかった。強く言えば良かった……

長男が死んだことを聞き頭が真っ白になりました。犯人のことを考えることができず、帰宅してニュースで犯人があなただと知った時のショックがわかりますか。2度と子供を合わせたくない人が子供を預かっていた、血の気が引く思いがしました」

 法廷ではやはりすすり泣く物音だけが響く中、母親は気丈に続ける。

Xさんから、あなたのところに預けられた長男が『嫌だ、怖い』と泣いたと伝え聞いた時の衝撃が忘れられません……。裁判の休廷中、笑みを浮かべて話をしている被告を見て、一生忘れないと思いました。あなたのところに預けることにしたのは、あなたの母親と従業員がいるというあなたの話を信じていたからです。そういう意味でもあなたの母親にも言いたいことはいっぱいあります。法廷でも、事故の一言で片付けたうえ、弁護士を通じて私に金を受け取るように働きかけをしてきて謝罪はありません。

人の命をあなたやあなたの母親はどう考えているのですか。妹へのいたずらを放っていなければ、犠牲者を生まずに済んだのではないですか。

あなたは私の大事な家族をもう一人奪いました。去年の9月に母親がなくなりました。『大切なものを失い、生きていくのが辛い、あいつのせいだ、りっくんの元に行けないと思うけど』と遺書を残して首吊りしました」

 事件後に実母が自殺したことをここで初めて明かされ、さらに司法修習生は涙を流す。

「長男だけじゃなく母のぶんまで私は頑張ろうと、裁判では目をそらさずにあなたを見てきました。否認するあなたに絶対負けないと心に誓いました。

 平成26年、駅で別れた長男の最後の姿を思い出します。ベビーカーで泣いている赤ちゃんを見て、長男はかけより『どうしたの、大丈夫?』と話しかけていました。1カ月後には誕生日を控えていました。もっと二人を見たかった。でもそれは永遠にかなわない。長男は2度と戻ってこないのです。

 犯人のこと、殺したいぐらい憎いです。今でも苦しみ続けています。最後の長男のことを知りたい、その一心でこの裁判を待ち続けていました。真実を知りたい、ただそれだけです。あなたがしたことを全部話してほしかった。しかし結局話さないまま終わろうとしています。

 子供を傷つけるあなたは社会に存在してはいけない。被害者たちの人生を考えたことはありますか。2人の命を奪ったあなたが憎いです。なぜ私の目の前で生きているのか。物袋勇治のことを絶対に許せない。簡単に死んでほしくないと思っていましたが、法廷で本当のことを話さないし、他人事のような姿を見て、罪を理解して背負うことはとても望めないと思いました。今、私は物袋に対し、命を持って償ってほしいと思っています。もう子供をおもちゃにして犠牲にされる事件が世の中からなくなってほしいと心から願っています」

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