T「こう挙げていくと、母も可哀想だったんだなと同情することに加え、最終的には『ただでさえ苦労が多かったところに、私のせいで子育ても失敗という駄目押しをしちゃったかな』という気持ちになり、責任を感じてしまうんです。私自身も価値観の揺るぎやすさや自己肯定感のなさは母から引き継いでしまったところがあるので、その克服が今非常に頭の痛い課題です。本当は、母の心配をしている場合ではないんですけど……」
子宮系女子をはじめとした類似のスピリチュアル系ビジネスでは、教祖が婦人科系&精神疾患、流産死産、DV、毒親など涙を誘う過去を赤裸々に語るのもお約束。そこに共感するポイントを見つけると、「私と同じように悩んでいた人が、この方法で乗り越えて、今こんなにキラキラ活躍している!」と取り込まれていくのが定石。おそらくTさんの母も、まさにそのコースだったのでは。
さらに子宮委員長は、〈家事育児しなくても、女は産むだけで母になれる!〉とネグレクトを増長させかねないお説や、〈カンジダの時こそおまたカイロで温めるべき〉だの医学的に問題がありそうな過激な情報を発信していますが、信者にはそれがますます魅力的に映るのだとか。
T「おもしろいですよね。めちゃくちゃなことを言っていても、『言いたいことが定まらず整合性がないのが人間らしい』『はるちゃんらしい』みたいに絶賛しています。『気分はふわふわ変わるもの』『周りを振り回したっていい、それでもあなたを好きな人はいる、ついてきてくれる』みたいな子宮教の教えが、無責任な行動も魅力にすり替えてしまうという。上手くできています」
Tさんも、子宮系女子の教えはすべて否定! というわけではなく、「本音はどうなのか確認することを忘れずに」「自分で意思決定をして流されずにいよう」と解釈できる点などは、アリだと思うと言います。
安易に「子宮の声」を信じない
しかしやはり、「物には限度がある」と苦言。
T「楽に生きるためのヒントは確かにあるでしょう。でもそれを遂行するにあたり、他人を害することになるならば疑問符です。子宮委員長を代表に、子宮系女子たちのやりたい放題は『自分を幸せにするためなら、なんでも許されるの?』と。また、教祖がプチ教祖を生みさらに信者を生み……みたいな、もはやネズミ講のような流れも、家族から見て本当に迷惑。信者にはありがたい教えだし教祖側も儲けてハッピー、お互いwin-winなのでしょう。でも、子宮系以外の人との溝はもっと深くなることを、声を大にして言いたいです」
つらい過去とキラキラ生活をブログやSNSで発信し、有料の〈お話会〉やオンラインサロンを開き、時にはご利益を謳う手作り雑貨を販売する。店舗や資格、在庫確保など、一般的な〈起業〉に必要な初期投資はほぼ必要ないため新規参入の敷居が低いのが、スピリチュアル系ビジネス。Tさんの母のような〈とりまき〉で満足できず、なんちゃって教祖様になりたい! 活躍したい! と奮起する女性も多そうです。
T「母もプロフィールだけなら教祖を狙えるポテンシャルがあると思うのですが、そこまで図太い性格でもないので、その器ではありません(笑)。しかしまあ改めて、〈子宮の声〉とか言っているのが謎です。そこ、普通に〈本音〉で済む話ですよね。カルマ粒とか龍が見えるとか遠隔ヒーリングとか、意味がわからなすぎます。母を通じて子宮系女子を見ていると、大仰な言葉で特別感を演出し、人の心の闇全般を利用してやるという強い意志を感じます。私も自己肯定感が低いなど母と同じ悩みは抱えていますが、安易に子宮の声、直感、カルマ粒などといった言葉に頼らずに自分の感情を説明する努力をしていこうと思います」
子宮系女子となった母を反面教師にすることで、自分の内面の問題と付き合っていこうと思う、と語るTさん。〈毒親〉と言うほどではないにせよ、自分の〈ワクワク〉が最優先という教えにハマってしまい、俗世の理屈が通用しなくなってしまった母と向き合うつらさや困難がよく伝わってきました。
※プライバシー保護のため、団体名や指名を一部改編させていただいています。
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次回の「身内がトンデモになりまして」は、2018年1月に「妹がオーガニック教になりまして」をお届け予定です。当連載では引き続き、読者の皆様の「身内がトンデモになりまして」体験談を募集しております。山田ノジルにお話をお聞かせいただけるという方は、nojiruyamada@gmail.com へご連絡ください。