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子宮摘出手術前夜、人生をともに過ごした子宮に「ありがとう」と「さよなら」を!

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摘出を控えた子宮にちんぽを届けたくて突っ走ってきた女性が、ついに実感できた愛の画像1

イラスト/大和彩

 前回は、手術前の説明を聞いた夢子が人工肛門や腹が出るかもしれない可能性について憤慨したり恐れおののいたりしたことを話したよな。

 入院を控え、荷造りが必要になった。弱った体でキャリーケースなどをアパートの2階から降ろすのは不可能だろうから、すべてリュックひとつに収めることにした。なるべく荷を少なくしたつもりのリュックでも、背負うと今の夢子には重い。アパートの殺人階段は、細心の注意を払いながらそろりそろりと降りた。

 この状態で、電車を駆使して病院に向かう筋力は残っていない。お金が少しかかっても、タクシーを使うしかないだろう。アパートからそう離れていないところでタクシーに乗り込んだ時には、すでに疲労で汗びっしょりだった。病気になると、使うかばんから交通手段まで制限されるから大変だ。

病室での人間関係や、いかに?

 ぜいぜい息を切らしながら病院に辿り着くと、そこには妙にハイ・ファッションな人がいた。キャリーである。ちくちくした鋲のついたカバンやジャケットを着ており、病院のロビーで待つ他の人々から不審な目を向けられていたが本人は至って涼しい顔である。

 キャリーのピアスは3cmくらいの長さの円錐形をしていた。近づくと目に刺さりそうで、ついパチパチまばたきしながら夢子は言った。

「キャリー、今日はわざわざありがとう。おしゃれだね!」

 動く剣山のようだが、キャリーにはとても似合っていた。キャリーはニヤリとしてこう応じた。

「なるべく夢子がいじめられなさそうな格好をしてきた」

 同室の患者との人間関係を夢子が心配していたことを覚えていてくれたらしい。夢子は唸った。

「さすがキャリー。素晴らしいアイディアだ!」

 キャリーの格好を同室の人たちに見せつけて度肝を抜かせてやろう、と2人で黒い笑いを浮かべながら病室に向かった。着いてみると、どの寝床もすべてカーテンが引かれ、シーンとしていた。患者がいるのかいないのかすらもよくわからない。キャリーのとげとげを見せつけるまでもなかった。

 きっとみんな考えることは同じなんだな! 短い入院期間、センシティブな疾患を抱えているんだからお互い無駄な干渉はしないでおきましょう、ということか……素晴らしいじゃないか。

 キャリーはヒソヒソ声でいった。「なんだ、いじめられる心配なさそうだな!」

「よかったー!」夢子はほっとしていた。

摘出した子宮を見たい!

 前日の外来でしもの話をされた際に、ほとんどの話は済んでいたようだ。その日はキャリーと軽い説明を受けただけだった。キャリーは心配そうに眉根を寄せ真剣に聞いている。しかし夢子は呑気なものだ。

「そんなに心配する必要ないのに。内視鏡だから痛みもないし、出血もちょろっとしかないだろうしー」

と、のほほんとしている。しかしヤツは翌日の手術後、それが大きな間違いだったことを知る。その場で夢子が真剣になったのは、取り出した子宮、つまり俺を見たいと主張する時だけだった。

「できたら麻酔から目が覚めた後、取り出した子宮を見たいのですが!」

 勢い込んで述べる夢子に医師は難色を示した。

「すぐ検査に出すので無理です」
「そこをなんとか! 一生に一度のことなので、ぜひこの目で見たいんです!」
「すぐ生検にまわしちゃうんで、それはちょっと……
「じゃあ、手術中待機してくれているこの人に写真撮ってもらってもいいですか!」

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』

さいごまで自宅で診てくれるいいお医者さん (週刊朝日ムック)