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賞賛される「凄い母親」と「普通に働く」ワーママの窮屈

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photo by Virginia Anderson from flickr

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 東洋経済オンラインでの人気連載「ワーキングマザーサバイバル」が『凄母(すごはは) あのワーキングマザーが「折れない」理由』(東洋経済新報社)というタイトルで書籍化され、話題になっています。

 本書でも触れられていますが、現在日本政府が打ち出している成長戦略のひとつには「女性が輝く日本の実現」があり、大企業を中心に、時短勤務制度や男性の育児休暇取得など、育児をしながら働く女性を支援する制度が徐々に整えられているそうです。そうした状況のなかでバリバリに働きながら、子育てをしている女性11人(+ 長年日本のフェミニズムを牽引してきた上野千鶴子先生)へのインタビューをまとめた本書は、messy読者にとっても注目に値する一冊と言えましょう。

 しかし(いきなり否定的な物言いになってしまいますが)本書で登場する「凄母」たちの姿が、実際の一般的なワーキングマザーのロールモデルとなるかと言えばそれは違います。私の勤務先にもちょうど時短勤務を活用しながら働く2児の母がおりますが、彼女と凄母たちとは、働き方はおろか、仕事の内容がまるで異なります。

 凄母たちは、凄母であるまえに「凄人(すごびと)」というか、めちゃくちゃに仕事ができる人でした。たとえば、ある化粧品会社につとめている凄母は、研究職からキャリアをスタートし、アメリカの大学でMBAを取得、その後、様々な有名企業でマーケティング職につき実績をあげてきたエリート。こういう人材なら、出産で休職しても、子育てで勤務時間に制限があっても、企業の側が「是非とも会社に残ってくれ」と要求するのは当たり前のように思われます。

 一方で、私の職場にいるワーキングマザーは、なにか重要な仕事を任されていることはなく、あくまで男性社員(あるいは、子供のいない女性社員)たちのサポートか、決して困難ではない類の事務仕事をしていて、現時点でそれ以上の業務は求められていないようなのです。

 失礼な物言いかもしれませんが、凄母とその女性には、企業の側から「(育児が大変だろうけれど、その人がいないと困るから)働いてもらっている人」と、企業の側が「(その人じゃなくても全く問題ない仕事しか与えず)働かせてやっている人」という大きな差があるのです。

誰もが「凄母」でなければいけないのか?

 凄母たちの多くが、自分たちの仕事に誇りをもち、今も大きなやりがいを感じながら仕事をしているようです。しかしながら、彼女たちは、広告代理店でヒット商品を次々に生み出したり、ベンチャー企業の営業として事業拡大に大きな貢献を果たしたりと、輝かしい成績を残してから出産を経験しています。その大きな業績があったからこそ、凄母として「やりがいのある仕事」を続けられているわけです。一般的なワーキングマザーが本書を読んでも「凄母は特例である」と思うだけかもしれません。逆に、本書はそうした条件を満たさない以上「やりがいのある仕事」はできない、という絶望を一般女性に突きつけるようにも感じられました。

 結果的に、「凄母」と「凄母ではないワーキングマザー」(あるいは出産を機に専業主婦となった人たち)との間に、ネガティヴな反応が生まれることもあるかもしれません。資生堂勤務の凄母は、家事はほとんどせず(お金で解決)「子供って、母親ができない分をフォローしてくれるんですね。朝はたいてい、1人で起きて、勝手に冷蔵庫を開けて、食べていてくれるんです」と語っていますが、これなど、発言小町に投げ込んだら「子供が可哀想!」「母親としてあまりに無責任過ぎると思うのは、私だけでしょうか」などと炎上するのが目に浮かびます。「凄い人」というのは得てして嫉妬の対象になるものです。本書が「凄母ではないワーキングマザー」を鼓舞する役割ではなく、嫉妬や焦燥に駆らせる一因となってしまう可能性も私は否定しきれません。

 そもそも凄母たちには、100あるマンパワーを仕事と育児に50ずつ振り分けて、バランスよく両立するという意識はないのです。やりがいがある仕事があって、やりがいがある育児がある。だからこそ、100あるマンパワーを様々な工夫によって2倍にして、仕事に100、育児に100のパワーを注いでいる。男性の私からしても凄母たちの働きぶりは「やりがいのある仕事があって、それをこなせる実力がある人たちは羨ましいなあ」と羨望のまなざしを注ぎたくなります。そんな風に仕事ができれば(子供がいてもいなくても)充実した生活でしょう。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra

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