恋愛や異性の目を意識したおしゃれも話題にするけれど、それだけが生活ではないのは女性なら誰でも認識していることです。実際、当初の脚本ではフィエロとの三角関係を描いていた物語でしたが、女性同士の友情に焦点をあてたものに変更に。グリンダとの友情を通してエルファバは、オズの魔法使いに頼みさえずれば自身のコンプレックスも世の中の問題もすべて解消すると思っていた視野の狭さが解消されます。
もうひとつリアルなのは、エルファバがいわゆる毒親持ちの“搾取子”であること。これは初演時から比べて、物語に現代の問題意識が追い付いてきたように感じています。緑の肌に生まれた理由は、母親が魔法のお酒を飲んで不倫した結果生まれたから。姉のようにならないようにと母親が緑色の食べ物を摂取せずに生んだために足が不自由な妹に対しても罪悪感を抱き、不当な扱いを受けても、報われない愛情を家族へ捧げつづけています。
現代につながる問題がいっぱい
周囲の優しさに恵まれなかったエルファバがフィエロと思いを通わせる場面の歌「As Long as You’re Mine」の最後、「生まれて初めて、幸せ」というつぶやきが、露骨な性描写よりもはるかになまめかしく感じられるのは、彼女を束縛する悲しい境遇からの解放であるからなのかもしれません。
「ウィキッド」は当初、映画化を前提に制作が進められていましたが、ファンタジックな設定とリアルなテーマを両立する脚本の難しさから、ミュージカルになったそう。個人的には、「マレフィセント」のように誰もが知る童話に違う角度から焦点を当てたものや「アナと雪の女王」のように女性の成長を描いた映画たちは、「ウィキッド」の成功があってこそ誕生しえたものではと思っています。
外見での差別や、異端者に対する排除の思想、独裁政権の恐ろしさと同様に、情報操作に踊ってしまう大衆の存在もまた、社会にとって大きな脅威になるものです。権力の維持のために仮想敵を作り上げるのも、まさに現代でも起きていること。学校で教わることや報道される内容のすべてを事実と信じ込むのではなく、自分の頭と心を使って、正義と真実を考えることの大切さを、一年の冒頭に改めて戒めたいものです。
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