連載

子宮摘出手術を終えた直後の感覚・暴れ太鼓のような痛みとおろされた大根のような無力感

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 夢子には幼少期の体験に由来するPTSDがあり、不安になるとパニック発作が出ることがある。そのため現在も精神科で治療・服薬している。入院する際、その旨を女性科の担当医に伝えた。

「そのことについては、精神科のドクターにも話しておいてください」

ということになり、面会時間を設定してもらったのだった。そこで精神科の医師、精神科の看護師、女性科の看護師、それぞれに自身の精神科の既往歴を説明してあった。

 さきほど数値をチェックしていた看護師に、事前にヒアリングされた。

「どういうときにパニック発作が出るんですか?」

「眠りから覚めた時に起こることが多いです。ちなみに外見からは絶対わからないと思います。パニック発作が起きている時の私はものすごく静かで、一切身動きしないんです。手術で体調が悪いだけなのか、パニック発作が起きてるか判断するのは自分でも難しいです。ただ体調不良との決定的な違いは、『自分は絶対死ぬ』という確信や希死念慮があることです」

「希死念慮」とは?

 希死念慮とは、「なんかよくわかんないけど死にたい」という思いに囚われることだ。誰しも「もう死んじゃいたい」と思うことはあるが、希死念慮ではやがてその思いに支配され、実行に移してしまうこともあるので注意が必要だ。夢子の場合、希死念慮がぽっと出てきた段階では具体的に自殺を計画しているわけではない。

 内臓のひとつとしての、俺の勝手な視点だが、希死念慮は混乱した内臓たちから体の処理能力を超えた化学物質が大量に出て、キャパを超えてしまった時に起きているように見える。体というコンピュータがバグを起こしているような感覚だ。壊れているわけではない、一時的にちょっと不具合が起こる。

 希死念慮は実体のないふわふわした感情などではなく、物理的、フィジカルな要因に引き起こされていると実感する。つまり精神論や気の持ちようでなんとかなる現象ではない。実際夢子の場合、希死念慮を起こしている物質を薬で叩けば、それは収まる。

「別に悲しくないのにこれから死ぬんだ、死ぬべきだって淡々と信じてる時は、だいたいパニック発作が起きてるみたいです」

 看護師にそう説明する自分の声が、暗い病室で蘇る。眠りから覚めたばかりで死ぬと確信している。夢子は思い当たった。

(ああ、こりゃパニック発作だわ)

深夜のナースコールで救われる

 精神科の医師と看護師からはこう説明されていた。

「手術後、お薬は飲めません。代わりに点滴の中に不安を抑える薬を入れたものを用意しておきます。もしパニック発作が起きちゃったら、すぐに言ってくださいね~、それ出しますんで!」

 忙しそうに働いている看護師を自分のことで呼び出すのはたいへん申し訳ないが、夢子はこれまでの経験から知っていた。パニック発作を甘くみてはいけない。放置するとパニック発作は心身をとんでもなく蝕む。そうなると体調も悪化するし、スタッフにかえって迷惑をかけるだろう。夢子はナースコールのボタンを押した。

「希死念慮が出ちゃいまして。精神科のお薬が入った点滴を用意してくださっていると聞いたのですが、お願いできますか?」

「はいわかりました」

 看護師は迅速に点滴の袋を取り換えてくれた。

 夢子は思った。

(「希死念慮」という言葉を知っていたおかげですぐに話が通じた。知識があってよかったなあ)

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』

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