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夢を追い続ける人、夢からこぼれ落ちた人の人生に見る”本当に大切なモノ“とは

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「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」アミューズソフトエンタテインメント

「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」アミューズソフトエンタテインメント

 このコラムにて、『SRサイタマノラッパー』(2009年)、『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム(以下『SR サイタマノラッパー2』)』(2010年)、と、連続で拝見し、どちらもとても面白かったからには、今回は、シリーズ三部作の最終章、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者(以下、『ロードサイドの逃亡者』)』(2012年)についてもぜひ書きたい、と思い、勢い込んでDVDを借りてきました。

 『SRサイタマノラッパー』、そして『SR サイタマノラッパー2』は、どこにも行けず、何者にもなれない若者の苦悩と痛み、そしてラップを通して夢を追いかける姿を描いた作品でした。

 『ロードサイドの逃亡者』では、『SRサイタマノラッパー』に登場するマイティ(奥野瑛太)が主人公です。マイティといえば、「サーセン」とへらへらしながら仲間を裏切る奥野瑛太さんの演技が素晴らしかった、あのマイティです! 映画一本分、この愛すべき裏切り者を堪能できるのが嬉しかったです。

今度の舞台は栃木

 『SRサイタマノラッパー』でサイタマの仲間を裏切ったマイティは、移り住んだ東京では仲間に裏切られ、事件を起こします。因果応報です。逃亡先の栃木で、マイティは犯罪グループの一員に成り下がり、インチキ音楽フェスの開催に奔走します。その音楽フェスにはマイティが裏切ったSHO-GUNGのメンバー、イック(駒木根隆介)とトム(水澤紳吾)も偶然出演。けれどマイティはいくつかの重い事件を引き起こし、必死で逃亡する身になるのです。

 明るいトーンで描かれた前2作と比べて、『ロードサイドの逃亡者』は圧倒的に暗いトーンで描かれ、今の日本の社会の底辺で生きる人間がリアルに描かれます。

だんだんマイティを応援したくなる

 筆者も個人的にマイティ的な人からマイティ的な仕打ちを受けたことがあるので(だからこそ『SRサイタマノラッパー』の裏切りシーンが心に刺さりました)、映画序盤からどんどん不幸になっていくマイティを見ながら、「勧善懲悪万歳! 裏切り者はどんどん不幸になれ!」と、最初は喜んでいたのです。しかし、この映画でのマイティの運命は、留まるところを知らずにどんどんねじれていきます。悪循環が悪循環を生み、予想もしなかった、とんでもないところに彼はたどり着いてしまいます。そんなマイティの状況を見続けるにつれ、最初の爽快な気分は吹き飛び、どんどん彼が心配でならなくなっていきました。

 この映画でもっぱらチンピラとして汚い言葉を使って暴力をふるい、罪を重ねる裏切り者・マイティに情が移ったのは、彼の良い面も映画では描かれていたからです。人間として最低の行動を続けるマイティ。けれど、同棲中の彼女には優しく接したり、実家で作っているブロッコリーには敬意を払います。片手に盗んだ金、もう片方の手にブロッコリーをつかんだまま逃げる姿は、マイティを最も端的に表した映像だと思いました。

交差する別世界

 マイティは重罪を犯し、警察やヤクザに追われる途中たどり着いた場所は、SHO-GUNGのライブ真っ最中のステージ真下でした。『SRサイタマノラッパー』で自分が裏切った友達は、光に照らされたステージの上で夢を叶えている。マイティは犯罪者で、チンピラにリンチを受けながら、刑事に取り押さえられ、血まみれで下からステージを見上げる位置にいる。なんという運命の皮肉。

 あまりに対比が見事で胸が痛みます。ひょっとしたら、ステージ上のSHO-GUNGのライブは、マイティの見ている夢なんじゃないかと思うほど。同じ空間に存在しながら、こんなにも生きている世界が違ってしまうという残酷な現実。そのあまりにも違ってしまった世界が一瞬交差した瞬間を切り取った、心揺さぶられるシーンです。

労働者問題

 マイティは、逃亡中のどさくさにまぎれて、大勢の人が監禁されている「どれいべや」を解放します。この「どれいべや」は、外国人、家出中の人や借金を返せなくなった人など、人身売買の商品になる予定の人々が男女入り混じって大勢詰め込まれ、家畜のような扱いを受けているプレハブの一室です。

 ちなみに労働者問題はこのシリーズでは毎回取り上げられているテーマです。『SRサイタマノラッパー』ではマイティの畑で働く中国人労働者が登場し、『SR サイタマノラッパー2』では「ブラ」と呼ばれるブラジル人労働者について言及がありました。『ロードサイドの逃亡者』では、その集大成ともいえる「どれいべや」が登場し、今の日本の闇の部分も毎回ストーリーに盛り込まれている『SRサイタマノラッパー』らしいモチーフだと思いました。

マイティの救い

 なんの希望もないように見えるマイティの物語ですが、私は、救いがあると思います。マイティには実家という帰る場所があり、実家にはブロッコリー畑という、帰る理由まであります。帰る場所と仕事、そして友達に恵まれている。マイティは実は非常に恵まれているのだけど、それに気づいていない。マイティの旅は、そのことに気づくための旅なのかなぁ、と思います。

 ラストシーンで「サイタマ」・深谷市の風景が映し出されます。鉄塔しかない文化の真空空間。『SRサイタマノラッパー』で、あんなに私が嫌悪した風景です。けれど、『ロードサイドの逃亡者』を見てからは、その見覚えのある風景に、奇妙な安心感を覚えました。『ロードサイドの逃亡者』はシリーズ一作目の『SRサイタマノラッパー』の見え方まで変化させてしまう映画です。「お前は女の股の汁すすって生きてんだよぉ!」というセリフが印象的な、美保純さんの迫力ある演技も見所です。シリーズを通してご覧になることをぜひオススメしたいです。

■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。

連載【月9と眼鏡とリモコンと

大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』

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