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メシマズ嫁に見る「家庭」の在り方

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Photo by Sarah from Flickr

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 古今東西時代を問わず「料理上手はモテる」とはよく浸透している概念です。最近では「料理上手の女性はモテる」よりも「料理上手な男性はモテる」という意見を聞くほうが多いかもしれません。これは「家庭のキッチンに立つのは女性の仕事」という時代ではなくなったことを表しているように思われるのですが、一方で「女性は料理ができて当たり前」という固定観念がなくなったことを示すものではありません。

 先日、情報番組『ノンストップ!』(フジテレビ系)で「メシマズ嫁」というキーワードが取り上げられ話題になっていました。「メシマズ嫁」とは文字通り「作る食事がことごとくマズい嫁」を指します。既婚男性からのこうした蔑称的な物言いは「妻には料理上手であってほしい」という願望のあらわれでしょうか。

 とはいえ、ネット上で語られるメシマズ嫁は、生半可なものではありません。「どうしたらこんな料理ができあがるのか……?」と途方に暮れてしまうほどの異次元的な料理センスが発揮されているようです。例えばこんな事例が見つかります。

「メシマズ嫁のありえない料理に思わずキレて罵倒してしまったら、嫁が泣いて実家に帰られた。そしたら嫁実家から出頭命令が下され・・・」

 嫁の料理レパートリーのなかで「クリームシチュー」は数少ない安心できるメニューのひとつだったのに、隠し味にホワイトチョコをいれて大失敗……という話ですが、嫁がホワイトチョコを間違えて使ったわけではないのがまた恐ろしい。「カレーの隠し味にチョコレートをいれると美味い」→「シチューもカレーと大体作り方が一緒なので隠し味として有効だろう」→「シチューなら普通のチョコじゃなくてホワイトチョコだろう」というありえない三段論法が衝撃的です。

 かつてデザイナー・映画監督・エッセイスト……など様々な才能を発揮した俳優の伊丹十三は料理の上手・下手についてこんなことを書いています。

「すぐれた舌を持っている人は、これから作ろうとする料理をどういう味にするか、はっきりしたイメージを持っている。イメージがあるから途中の段階でだんだん味を整えてゆくことができる。/一方、味覚の鈍い人の唯一のよりどころは、例の、だしカップ一杯半、砂糖大匙三杯みたいな数字だけである。イメージがないから、妙な味になってもなおすことができない」
~エッセイ集『女たちよ!』(新潮文庫)より

 これは至言でしょう。ホワイトチョコシチューを作った嫁がまともな料理を作れない理由も、伊丹十三が指摘する「イメージのなさ」にありそうです。シチューにホワイトチョコをいれたらどんな味になるのか。その想像力がまったくはたらかず、「隠し味にチョコレート」という知識だけが暴走しているように思われるのです。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra

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