カルチャー

「母親だけが育児担当」という風潮の打破! 子供のいない著者が書いた育児本『いくもん!』がアツい

【この記事のキーワード】

 『混迷社会の子育て問答 いくもん!』(以下「いくもん!」と表記)(扶桑社)を拝読しました。この本は、結婚歴なし、子供なし、結婚予定なし、子作り予定も当面なしの著者・中村珍さんが、蚊帳の外から他人の育児を「問答」する(すなわち、『いく(育)もん(問)』)という内容です。

 とはいえ、中村さん自身「そもそも極論、私は子供たちが幸せならどんな育児方法でもいいと思うし、カヤの外からとやかく言う必要はないと思ってるんです。でもそこをあえて物申すのがテーマの漫画なので……(笑)(p.161)」と語ってらっしゃいます。

 「この企画に起用されたときは『うわぁ……業の深い仕事だ……』と思いました(p.158)」「私に親を悪く描かれた子たちには最悪刺されても文句は言えないな……とも思っています(p.158)」「親になるときはこういう漫画をやめます(p.159)」などのコメントからも、著者がどれだけの葛藤を乗り越え、それほどの覚悟でこの作品に取り組んだかが伺えます。

 私自身、「結婚歴なし、子供なし、結婚予定なし、子作り予定も当面なし」なので、この本のコンセプトには衝撃を受けました。育児って、関わった経験もなければ関わる予定もない、私のような者が語ってはいけない分野だという固定観念があったからです。けれど考えてみれば、この固定観念こそが、「母親だけが育児担当という風潮を助長」しているのかもしれないのです。この本を読んで、今後そのような態度は改めようと思いました。

 「自分が育児についてどう考えているか理解できれば、育児をする/していない他人と隣り合わせの社会で暮らしやすくなるかなあ~と思います」と、中村さんも書かれているように、少なくとも、育児について自分がどう考えているか、理解を深めたり言語化できるようになるということは、育児の蚊帳の外にいる自分にも必要なことです。

 さらに、『いくもん!』では、「毒親」もテーマのひとつとして取り上げられており、個人的にその考察がとても参考に、そして励みになりました。

表紙に込められた著者の「育児論」

 この本は、表紙からして素晴らしい。インパクト大です。母親と赤ん坊のシンボルが描かれた「母子健康手帳」に落書きするかたちで、中村さんがいろいろと意見を書き込んでいらっしゃいます。母親と赤ん坊のシンボルマークには、「母親だけが育児担当という風潮を助長するおそれ」と赤ペンで書き込んだうえで、シンボルマークに父親の絵も書き足し、「こうあって欲しい」とコメント。「母子手帳」の「母子」という語に対しては、「父親も母体と胎児を気づかうべき」とコメント。

 絵と文字、両方のコンビネーション技で、『いくもん!』という本のコンセプトが一目で理解できる、秀逸な表紙デザインだと思います。

 ちなみに、カバーをめくると、ブレインストーミングにて、表紙での中村さんの考えがさらに展開されています。例えば、表紙では「父親も母体と胎児を気づかうべき」とあったメモ書きに、「そもそも社会全体が気づかうべきでは?」と書き足されています。そして裏表紙の右端は、「育児の成功って何?」→子供の幸せ!!※必ず子供本人が判断」という言葉で締めくくられています。

 表紙だけでこの情報量! いかに「育児」というテーマが複雑で多面的か、物語っています。

著者の主観は1ページのみ

 この本に、「著者・中村珍さんが育児に関して毒舌を吐く」といった内容を期待されている方は、読まれないほうがいいと思います。なぜなら、この本は、著者の主観に触れるというよりは、読者自身が、育児の様々なテーマについて考えを深めるように書かれているからです。

 本編では、「キラキラネーム」「イクメン」「ミキティ騒動」「毒になる親」「炎上ソング『ママ』」などのテーマが問答されています。一話5ページでまとめられており、そのうち1ページはその回のテーマを紹介するイントロ、真ん中の3ページで実際に育児されている親御さんの紹介がなされます。けれど、この3ページはあくまでも取材から得た情報をそのまま読者に紹介する、というスタンスに徹して描かれているので淡々と読めます。

 中村珍さんの主観や感想が出てくるのは最後の1ページのみで、「この親に育てられたい度」をご自身がパーセンテージで回答する趣向です。ですが、ここは、あくまでも「中村珍として、登場した親に育てられたいのは何パーセントか?」ということを示しているので、「私(中村珍)としては、こう思うけれど、皆さんはどうですか?」という、読者への問いかけがなされているんだな、という印象のほうが強いです。

1 2

大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』

[PR]
[PR]

messy新着記事一覧へ

混迷社会の子育て問答 いくもん!