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どんなに困難でも、母親が無理やり育児に立ち向かわされる日本社会

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 また別の話題もある。この動画が撮影された時期と同じ今年3月、埼玉県富士見市のマンションの一室で横浜市磯子区の山田龍琥(りく)ちゃん(2=当時)の遺体が見つかった。ほどなくして死体遺棄容疑で逮捕されたのは、ベビーシッターとして龍琥ちゃんを預かっていた物袋(もって)勇治容疑者(26)。保護責任者遺棄などですでに起訴されているが、否認を続けており、7月1日には殺人罪で6度目の逮捕となっている。

 母親はネットを介して龍琥ちゃんとその弟を3月14日から16日の予定でシッターに預ける事にしていた。また以前もネットで物袋容疑者にシッターを依頼したことがあったが、不審な点があり、別のシッターを頼んだ。しかし実際はその別のシッターは偽名を使った物袋容疑者で、子供を預ける際に現れた男性も物袋容疑者とは異なる人物だったのである。

 一連の母親の行為は何ら落ち度のないものであったが、しかし、ネット上やテレビ番組では、驚くことに母親への非難の声もみられた。主に、シッター会社を介さずにネット上で直接シッターとやり取りすることへのリスクを甘く見ていたという内容である。果ては母親の職業にまで非難が及ぶという事態に至った。

子育て支援の従事者さえも「育児は母親が」という価値観を持つ

 前者のローキック動画については、どこからどう見ても弱いものいじめであり、この行為自体は褒められたものではない。とはいえ育児を担っていればカッとなることの一度や二度はある。後者の殺人シッター事件については、費用削減のためにシッター紹介会社を介さなかったという迂闊さはあるが、預ける人が周りにおらず、金銭的にも厳しければ、そうした選択肢を取る事は誰にでもあり得る話だ。しかし、母親の周囲を取り巻く環境や問題を無視して、母親非難の声が多く上がるのは“母と子にまつわる騒動”の特徴であろう。普段から“税金で暮らしている”などと揶揄されることの多い公務員が、不祥事を起こしたときと同等かそれ以上に、“正しく”行動する事を世間に要求される。

 これらの母親たちに必要なのは「正しく自らを律せよ」という非難ではなく、身近な人の助けである。またそうした助けを得られない場合には、安心できる何らかの子育て支援サービスが重要になる。核家族化が進み、一昔前の三世代同居などはもはや都市部では珍しくなってきたことに加え、地域の結びつきが希薄になっている昨今、助けてくれる身近な人というのはそうそういないことが多いだろう。そうなると、現代社会にふさわしい子育て支援サービスが必要となるが、安心と便利さを得るためには金銭的に余裕がなければ難しいという状況でもある。それに子育て支援サービスが存在したとしても別の問題がある。

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