インタビュー

aikoの抱える悲壮感に胸を焦がす、aiko好き男子の心理

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――でも中島みゆきも結婚はしてないし。結婚・出産を経ずに生きていく可能性は充分ありますよね。aiko本人は結婚したい人、なんですかね?

大熊「わかんないですよね」

――ほら、恋愛だけしてたいから結婚したくない人っていうのもいるじゃないですか。恋愛ジャンキー。

大熊「どうなんでしょうね、恋愛はいつもしてそうですけど、ただとにかく“仕事命”ではあるんですよ、aikoは。仕事命」

――ワーカホリック?

大熊「まあワーカホリックでしょうね。彼女は03年に一回、喉を痛めて半年休養しているんですが、それを機に煙草とか一切やめて喉にすごい気を遣うようになって。その頃の音楽雑誌のインタビューでaiko、もうすっごい落ち込んで暗いことばかり言ってるんですよ。仕事に穴を空けてしまって、ツアーも休まざるを得なくなってしまって、みんなから見放されるんじゃないかと思った……みたいな」

――なんか社畜みたいですね。

大熊「そうそう。ホントそんな状況になってて。それから10年以上経ってるんですけど、aikoはずっと自分自身を追い込み続けてるんですよ。一切休んでないんですよ、それから。安定したペースでシングルもアルバムも出して、ツアーをやって、10年連続で紅白に出て、ドラマや映画のタイアップ曲も作って。こんなに走り続けて第一線で活躍し続けてる人っていないと思うんですよ。偉大じゃないですか? そう考えたらaikoが偉大に見えて来ませんか?」

――偉大ですけど何だか可哀相にも見えてしまいます。

大熊「そうなんですよね!! そんなところを見させられたら好きにならない理由がない」

――それって嗜虐的じゃないですか?

大熊「いや……心が締め付けられそうになるんです、aikoを見てると」

――そんなに頑張らなくていいんだよaiko、って?

大熊「まあそういうことです。でも本人の中では『やるって言ったらやる!』しかないじゃないですか。そして実際にやってるわけじゃないですか。僕はただのいちファンだから止められない。そういうのを見ていて心がグっとなります。そんなaikoを好きにならないわけがないじゃんって」

――それは彼女の持つ健気さに惹かれているという。

大熊「それともうひとつ大事な要素があって、僕はaikoになりたいんです」

――……は?

大熊「男性がAVを見ている時、誰に感情移入していると思います?」

――男優ですか?

大熊「普通そうですよね。でもこれは二村ヒトシさんとかも言っている話なんですが、女性に感情移入してしまう人が意外と多いそうなんですね。それはゲイとかバイセクシャルとかではなくて、AVって男優よりも女優の方ががすごく気持ちよさそうにしているじゃないですか」

――ああ、だから気持ちよさそうな方に感情を重ねてしまうと。

大熊「そういうことです。同様に、aikoって歌っている時ものすごく気持ちよさそうなんですよ。そのオルガズムはAVなんかの比じゃない。ステージ上どころか、CD音源だけで伝わってきますから」

――気持ちよさそうではありますが、あくまで聴き手としてそれに酔っているのかと思っていました。まさかaikoになりたい、なんて。

大熊「aikoになったらあの快感を味わえるんですよ。aikoになりたいと思うのは当然じゃないですか。そうやって力いっぱい感情移入しているので、aikoの抱えているものが垣間見えると自分のことのように胸が締め付けられるわけです」

――aiko、AV女優説……。

aiko好きな女とaiko好きな男

――だんだん、aiko好き女子である私と、aiko好き男子である大熊さんの、aikoの消費の仕方が全然違うということが明確になってきた気がします。そういえば、aikoを好きだと公言していると「あ、そういう女が好きなのね」と斜に構えた感じのことを言われるんですよね?

大熊「言われますねえ」

――世間一般で認識されてるaiko像っていうのは、快活で自由で恋愛ジャンキーなJ-POPの人。で、「そういう女が好きなのね」と。

大熊「あと、下ネタとか言うわりに『女子女子してる』っていうところが鼻につくわ~って人もいるんじゃないですかね。ぶりっ子っぽいというか。僕はそんなふうにaikoのことを悪く言う人たちの感性が理解できないんであれですけど」

――私が思うにですけど、カラオケでaikoを歌う女も嘲笑されるというか。恋に恋してる、恋愛のことばっか歌ってる、痛いみっともないっていう連想。

大熊「ああそういうことだと思います。恋愛のことばっかり歌うっていうことが……」

――イイ年していつまでも何やってんのみたいな。

大熊「感じなんじゃないですか、わかんないですけどっ」

――でも大熊さんはaikoのことをそんなふうには見てないと。

大熊「それはそうですよ、彼女は本当の意味での、芸術家っていう意味でのアーティストですよ。もう一個大事なのは、『そういう連中からそう見えてる』ってこともまた偉大なんです。こんだけのことをやってるのに、街で流れるBGMである普通のJ-POP歌手という立ち位置を維持し続け、しかも消費され切らずにやり続けてるっていうのはすごいなって」

――消費されて生産してっていうのをずっと繰り返せてるってことですよね。

大熊「はい。たとえば椎名林檎って最初からずっと何かを過剰に演じ続けていて、その時々によって演目を変えて消費されないようにしてると思うんですよ。なので、この間のW杯では『フレフレニッポン』的な物を演じていましたよね。比べて、aikoは自身がaikoのまま、消費されきらずにいまだに残っているのってすごいなって」

――形を変えずにってことですよね。

大熊「そう。すごい強度だなって思います。保守的なんですけど残っているっていうのは、それだけの強度があったってことですよね、本人に」

――先ほどの保守的なってとこに繋がりますよね。むしろ変容させてはいけないから苦しいんだと思いますけど。どう頑張っても人間の形は変容するのに。

大熊「どうしようもなく辛い苦しいって思うこともあるだろうけど、でも前を向いて突っ走るしかない、そんなaikoに僕は胸を打たれるんです」

――ありがとうございました。

 大熊さんはaikoそのものに恋焦がれており、彼女の楽曲を自分の心境と重ね合わせたり、恋愛にまつわるトラブルに見舞われて悩む“aiko以外の女性”に投影したりすることも一切ないという。「現実に身の回りに起こる事象とはまったく関係ないんじゃないですかね。この人だけの世界だと思ってるので。逆に共感できます?」とさえ……。

 私個人は冒頭で「失恋のたびに聴く」としたとおりで、最新アルバム『泡のような愛だった』収録の「明日の歌」で紡がれる言葉に「コ・レ・ハ!!」と驚いて、ヒトカラの店に行ったほど(しかし配信されておらずiPhoneで曲を流しながら歌った)、勝手に彼女の楽曲に共感を覚えがちなため、「個々によってこんなにも聴き方が違う」ということを再認識した次第だ。最終的に、「メンタル弱ってる時に、aikoの歌なんて聴かない方がいいですよ。不安にさせる曲調ばっかりなんで」とアドバイスされた。

 これですべての“aiko好き男子”をわかったわけでは決してなく、むしろ謎は深まるばかりだったが、aikoのアンチエイジング悲壮感とアーティストとしての優れた才能および孤独感が、ひとりの男性を虜にしているということはわかった。今後、このようなかたちで“××好き男子”の内側を不定期に探っていこうと思う。
(水品佳乃)

■大熊信(だいくましん)
1980年生まれ。千葉県出身。ライター・編集者。現在「cakes」でコンテンツの編集を担当。

https://twitter.com/die_kuma
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