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「結婚を意識しない女性はステキでない」? 『FRaU』の夢見がちな結婚提案に異議あり

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(「FRaU2013年7月号」講談社)

(「FRaU2013年7月号」講談社)

 今回は、『FRaU』7月号「運命の結婚」特集を見ていきましょう。「結婚」……いきなり「女性の幸福とは何か」の核心を突くような題材ですが、『FRaU』特集タイトルには「その幸せを掴むために。育てるために。」とあります。そこで根本から問いかけたいのは、「女性にとって結婚とは何なのか」ということです。

 「女の幸福は結婚」と世間様ではよく言われているかもしれません。しかしよく考えてみれば、結婚がすなわち幸福なのではなく、幸福な結婚が幸福であることは自明と言えます。逆に言えば不幸な結婚は不幸なのです。よって結婚は女の幸福と必ずしも結びつかない。

 あくまで結婚とは制度であり、単なる手段。これを体現しているのは本特集で読者からの結婚相談に答えている夏木マリさんでしょう。59歳で現在のパートナーとの結婚を選択した彼女は、結婚を「目的」とする婚活には否定的です。身も心も自然につながりあえることの幸福が、自然に結婚という手段を選択した……という、ある種ナチュラルで、だからこそロマンティックな結婚観がそこにはうかがえます。

他人が決めるものじゃなくね?

 一方、この「自然」と衝突するのが、美容ジャーナリスト・齋藤薫さんのコラム。「30代の結婚の方が総合的に得である」から始まり、なかなかアグレッシブな内容です。若くして短い期間の結婚生活を経験して離婚したハリウッドセレブたちが、30代後半を迎えてようやく“真実の結婚”“本モノの結婚”をした、ワガママセレブも3度目の結婚で人として成長したと言われている……と説く齋藤女史。それは日本のごく一般的な女性も同じだ、と考えているようです。そもそも他人の結婚が“真実”“本モノ”かどうかなんて誰にもわからないと思うんですけど。

 いわく、30代の女性は「キレイのピーク」を迎えて「20代で結婚してしまう女たちには到達できないキレイの境地にまで行き着く」。そのうえ、仕事でキャリアも積むし、経済力を持つ人もいる。そして生涯で一番結婚願望が強くなるのも30代。め、めんどくせえー(金も仕事もキレイも持ってない婚活女子もたくさんいると思うんですけど、その人たちはどうすれば?)。

 そんなめんどくささを男に感じさせず、見事に結婚できる人もいるのだが、それはその人の普段からの「結婚願望」が呼び寄せた運命だ、と齋藤先生は主張されています。つまり、本当は結婚したくてたまらないのに「別に結婚なんかどうでも良いしー」とうそぶいているサバサバ系はステキでなく「悪い結婚願望」、むしろ「(当てはないけど)結婚したーい」と明るく笑いをふりまく女性が良い結婚願望の発露なんだとか。

 ……なんという結婚へのオブセッションなのでしょうか。

 たまたま巡り合わせが悪く結婚できなかっただけかもしれないし、本人の意識が結婚願望へと自然に向かわなかっただけかもしれないのに、結婚に背を向けた女はステキではないと言い放つその感覚。そして、結婚したくてもしたくなくても、いい歳の女なら「結婚したーい」と自虐的にネタにしておけよ、というセンス

 既婚男性の一人としては、自虐的な女性なんて誠にめんどくさそうですし、余計に婚期が遠のくだけでは………そもそも、そんなに頑張らないと結婚ってできないものなの? と思うわけですよ。

 こんなに頑張らないと結婚できないの……という、その苦しさには、夏木マリさんが違和感を抱く不自然な婚活、結婚そのものが目的化されたライフプランにあるような気がします。別に結婚しなくても、一生ソロ活動でもそこそこ楽しく生きていられる、特にいわゆる「女性総合職」という生き方であれば経済的には問題が多くないわけでしょう。それでも結婚という目的を遂げなくてはならないのだとすれば、社会的な脅迫がある、とでも言えませんでしょうか。つまりは「女の幸福は結婚である、だから結婚せよ」という……。

結婚生活は「フツー」の連続

 結婚はたしかに人生の一大イベント。相手を間違えて失敗したくないし、一回ぐらいはしてみたい。そのお気持ちはわかります。しかし、結婚そのものよりも結婚してからの生活のほうがずっと長いわけですから、結婚の仕方よりも結婚生活の仕方のほうが重要なのでは。作家・辻村深月さんへのインタビュー記事のタイトルにも「結婚は目標ではなく、始まりにすぎない」とありますけれど、「え、そんな当たり前のことも言われなきゃわかんないの?」と思います。結婚をゴールと考える女性は(そんな女性が存在するとすれば、ですけれど)、就職活動や受験勉強のあとに「就職がゴールじゃない」、「大学合格がゴールじゃない」と言われてこなかったのか、という疑問さえ浮かびます。

 その点で、「結婚生活」にフィーチャーする記事が、本当に気持ち良いセックスを教えてくれる女医・宋美玄さんによるセックス・レッスンぐらいしかないのは寂しいところ。結婚生活とセックスは密接ですが、セックスだけが結婚生活じゃないんだから……。金とか家とか姑とか介護とか子育てとか保険とか、そんな所帯染みた話は『FRaU』には似合いませんけど、きらびやかな「結婚」のイメージだけを読まされてもなんだかなあ。

 以下、世話好きおばさんみたいな話になっていきますが、付き合っているときに結婚生活をリアルに想像できるカップルであったら、そこそこ上手くいくと思うんですよ。洗濯物の脱ぎ方とか、食べ終わった皿を付け置きしちゃうかすぐに洗うか、とか些細なことでケンカする可能性も考慮しつつ、一緒に一週間暮らせるかどうか想像してみてください。もちろん、育ってきた環境が違うセロリ同士、さまざまに折り合いをつけていくシーンもあり、ケンカだってするでしょう。そして、交際開始直後のハイテンションがずっと続くわけではないのは周りの既婚者を見てもわかることです。だいたいの夫婦が結構なロー・テンションを維持しながらフッツーの顔をして生活してるハズ。

 あまりにも夢がない? でも、そんなものだと思うんだよなぁ。「運命の結婚」でも、いずれロー・テンションになってしまう。そのフッツーな生活っぷりの方を知っておいたほうが、過度に期待を抱かず、すんなり結婚できてしまったりして。

 ちなみに東方神起やBeeTVのドラマPRで登場している向井理、斉藤工らイケメン勢はこぞって「結婚とは●●である」といろいろ言わされていますが、全員独身なので「●●である」なんて断言されても全く参考になりません。22歳で結婚してずっと“生活”を継続しているユーミンのインタビューも「仕事に理解のある夫に感謝」「インスタント食品を食卓に載せたことは一度もない」「たこ焼きなのにシノワズリのお皿に載せたり」とキレイごとばっかり(たこ焼きを……?)。正直、松任谷正隆との壮絶な夫婦喧嘩の話とか名取裕子との不倫疑惑が出たときの心境とかゲーセワなお話も聞きたかったです。

■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。

カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra