強姦の定義とは
2013年に出版された本書が取り扱うのは、刑事司法における性犯罪についてです。著者はまず、刑法や政策の歴史を振り返ることで、日本ではどのような行為が性犯罪・性暴力として扱われてきたのかが整理されています。ここでの議論には、松島法相の問題視する「性犯罪の刑罰の軽さ」がすっぽりと含まれます。
まず、「強盗に比べて、強姦は軽いのでは?」という問題定義は、松島法相が初めておこなったわけではありません。たびたび国会では俎上に載る問題であり、本書の整理によれば、2003年のいわゆる「スーパーフリー事件」を契機として、2004年に強姦罪と強制わいせつ罪の法定刑が引き上げられています。
ただし、この引き上げもスムーズに進められたものではありません。引き上げへの反対意見のなかには「強姦の被害者に落ち度があるのではないか?」というセカンドレイプ発言もあったようです。性暴力をめぐってはこうして「被害者にも責任がある」、「被害者は逃げられたのに逃げなかったのではないか」といった、守られるべき被害者が責められるケースがあります。また、強姦罪と強制わいせつ罪を隔てる基準が、男性器の女性器に対する挿入に定められていることも注意すべきでしょう。暴力や脅迫によって無理矢理に口淫をさせられた場合、これは挿入がないため、強姦とみなされず、強制わいせつ罪として扱われます(また、同じ理由で、男性から男性への強姦罪は現行刑法上存在していません)。
もしも性犯罪の刑罰見直しが行われるのであれば、上記のような被害者責任論を排除しつつ、かつ、挿入の有無によって決定される現行の強姦定義の問題点(強制的な口淫によって、摂食障害を引き起こすなど極めて重篤な影響があるにも関わらず)をどのように是正するかが論点となるべきでしょう。性犯罪に関するネット上の議論は、性犯罪者は去勢せよ、GPSをつけて管理せよ、などといった極論に向かいがちです(かつ、ポルノの無条件肯定や、ミソジニーなども溢れているため、複雑……)。性犯罪への怒りの気持ちと正義感、そして嫌悪感は理解できますが、極論同士をぶつけあっても現状は改善しません。現実的には本書が提供しているような論点の確認がまず必要です。