
Photo by Andrea Pozo from Flickr
【第一回:私はいかにしてビッチになったか~蜜柑の恋 地元編】
【第二回:彼氏以外の場所を失って。過熱する初恋~蜜柑の恋 地元編】
ちゃんとした『彼氏』?
晴れてアキとマミの縁が切れたのは、1年ほど私が「二番目の女」の状況に耐えてからだった。アキの店は潰れ、彼は通信会社へと転職した。
サラリーマンになったアキは散財をやめ、極力慎ましく生活するようになり、私と半同棲のような日々を送るようになった。一緒に料理をし、一緒に眠り、私は彼の家から高校へ行き、彼は私が作り置きした朝ごはんを食べてから仕事に出かける。穏やかで安定した日々が続いた。私の親子関係は当然悪くなる一方だったが、その頃の私にはアキがすべてだった。親から何十件着信があろうと、何の罪悪感も感じなかった。
ベタ惚れされているという安心感が浮気心を生むのか、そんな私に飽きたのか、アキは私がいない間に家に女を連れ込んでいたことがある。それも一度ではなく二度である。アキが隙だらけなのか、私の悪運が強いのか、私は現場にたまたまバッティングしてしまった。思いっきり修羅場だ。
一度目は彼はバスタオル一枚という間抜けな姿で、玄関に突っ立っていた。その先にいるであろう女と鉢合わせないよう、私が部屋へ入らないよう必死にディフェンスをするアキ。あのコメディ映画のようなシーンは今でも鮮明に思い出す。私は泣き喚いた。玄関で押し問答している間に、浮気相手はベランダをつたって外に出ていた。なんともタフな女性である。大ゲンカした翌日は、彼が私の通う高校の校門前まで謝罪をしに来て、私は許した。彼がいない生活は考えられなかったから。
二度目は、「ちょっと実家に帰ってくる」と言っていたはずのアキと、最寄駅のエスカレーターで遭遇した。彼の実家はこの駅付近ではないはずなのに。
私は友人とカラオケで遊んだ帰り道で、私たちのグループがエスカレーターで下に降りていくところを、女連れのアキは上にあがっていく。スローモーションですれ違う。楽しそうな彼の顔から目が離せず、声が出なかった。視線が合うと、アキの顔が一瞬でこわばった。
一度下まで降りきってから、私はすぐに反対のエスカレーターに飛び乗り彼らの後を追いかけた。
――実家に帰ったんじゃなかったの? その子、誰。
アキ「仕事関係の人」
嘘だ。その子はどう見ても18歳くらいにしか見えないし、鼻にピアスをつけている。格好もギャル風だし、通信会社の関係者じゃなさそうだ。見え透いた咄嗟の嘘に、思わず笑ってしまう。
――本当ですか?
相手の女性にと問うと、アキはすかさず「この子に話しかけんな。もう夜遅いんだから帰れ」と私に言い放ち、浮気相手を逃がした。
逃がすまいと追いかけようとした私は、アキに髪の毛を掴まれ電柱に頭をぶつけられた。あっという間の出来事でただただ驚いた。痛いと感じるより先に、アキの声が響く。
「余計なことするな」、「こんな時間に制服でいたら補導されるだろう。早く帰れ」
怒鳴る彼、オロオロと立ち尽くす私の友人。初めての暴力だった。
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