
Photo by Charlotte Godfrey from Flickr
通勤中に電車に揺られてふと視線を上にあげると、週刊誌の中吊り広告が目に入りました。目が釘付けになったのは、「日経新聞記者はAV女優だった!」という見出し。朝から見る者を不快にしてくれる週刊誌テロ、ほんと勘弁してほしいですね。「AVに出てた女のくせに、新聞記者だぁ!? 不届き者め」とプンプン怒りながらも、同時に「そんなエロい新聞記者、けしからん(;´Д`)ハアハア」と発情しているオジサンたち。見事なダブルスタンダードに当てられて、立ちくらみしました。
以前、『男子の貞操-僕らの性は、僕らが語る』を読み、「男性の性は、記号に支配されている」という一節で、私はいろんなことが腑に落ちました。たとえば〈女子校生〉〈人妻〉、あるいは〈巨乳〉〈ロリ顔〉〈素人〉〈初脱ぎ〉……こうした記号で彩られた女性のヌードにこそ男性は興奮するのだそうです。
上述の記事では、〈日経記者〉のみならず〈慶応を卒業後〉〈東大大学院も修了して〉〈社会学者としても活躍したうえ〉〈父親は哲学者〉というおカタくて華々しい経歴と、〈AV女優〉という決して相容れないと思われていた記号がひとつの女性に宿っていることに、オジサンたちは歓喜したわけですね。表向きはプンプン怒りながらも、心のなかでは勃起しているであろうことは明白です。だって、この女性本人のことはまったく関心がなさそうなんだもん。自分たちにとっておいしいオカズとなりえる記号だけを、ツマミ食いしているのですね。
私自身も〈一般の会社員〉と〈バイブを試しまくっている女〉という、相反する記号を持っています。上記の記者さんと比べいずれの記号もインパクトに欠けるため、身バレしたところで話題にはならないにしても、私の生活は激変するでしょう。記者さんは「過去の経歴がバレたから、記者を辞めたわけではない」といいますし、本人としては特に隠しているつもりもなかったようですが、私の場合は確実に社会生活ができなくなります。もちろん、この桃子という名前でも雑文を書いたりメディアにコメントしたりして報酬をいただいているので、社会生活をしていることにはなりますが、メインはやはり会社員としての生活です。これを失うのはたいへん困ります。
なんでもかんでも記号化してオカズに
だからこそ、顔を出さずに活動をしています。言うまでもないことですが、顔をさらすというのはオッパイや性器を見せるより、よほどリスキーです。私は、オッパイや性器を使って、会社員としての生活をしているわけではなく、この顔で仕事をしています。でも、オッパイや性器を使ってバイブコレクターとしての活動をしているわけでもないのです。ラブグッズの楽しさを広めるために、自分が知っていることを披露しているだけです。自分自身が性の客体となるつもりは毛頭ないのです。
でも、〈性にまつわる情報を発信する〉と〈性の客体となる〉の線引きが、自分のなかでも曖昧なときがあったのも確かです。取材というものをはじめてされたときには、セクシーなポーズを求められ、あまり意味もわからずに応えたこともあります。肌はほぼ見せていませんが。需要があるとも思えないし。インタビューに答えた記事に「セックスを生業とする女たち」というタイトルをつけられて仰天したこともあります。私はバイブ好きなだけであって、セックスを売り物にしたことはありません。でも、男性の多くは〈性にまつわる女性〉はぜ~んぶ一緒なんですね。その取り組み方が〈発信〉でも〈客体〉でも、どっちでもいい。記号さえあればオカズにできますもんね。
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