カルチャー

生っぽい大人のセックスで少女漫画を「現実」に寄らせた『クローバー』

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 咲ちゃんと大倉くんが、明らかにセックス目的でホテルに行き、そこで、咲ちゃんが既に処女ではないということを大前提として、キス→ベッド、翌朝のバスローブ姿。その一連の時間が、ちらりと映るブラジャーが、とにかく妙にエロい。「えええ少女漫画じゃなかったの、咲ちゃんそこまでやっちゃって大丈夫なの」と驚くほど、そこに漂うセックスの匂いはこっちの世界と地続きだった(いやもちろんこんな男にドライヤーで髪を乾かしてもらうなんて十分夢物語なんだけど)。そのシーン以降、少女漫画原作でありながらも、ああこのふたりはやったのか……と下世話な想像をすることで納得できる展開に繋がっていく。

 なのでそのあと、永山絢斗演じる元カレとの間で揺れる女心や、自分よりも仕事を優先する恋人に対して、「何を考えているかわからない、どうして私を選んだんだろう」、とうじうじ悩んでしまう主人公の姿が、普通のOLの姿として、違和感なく描かれていく。二十代じゃなくても、武井咲じゃなくても、そういう不安に襲われるときがある、と思えるのだ。

 とは言うものの、壁ドンに始まり、ほっぺをむぎゅっとつねられたり、頭をなでられたり、特にラストの大告白シーンの仕掛けなんかは、映画の中でしか有り得ない胸キュンに次ぐ胸キュンの玉手箱状態で、少女漫画バカの期待も裏切らない。そして咲ちゃんの可愛さ自体にも胸キュンせずにはいられない(大倉くんは、個人的にはもうちょっとSの方が萌えたかな)。

 いくつになっても夢見がちな妄想を捨てきれない、でも、それだけじゃどうにもならない、そんな現実に生きる女の子たちに(できれば男の子たちにも)おすすめしたい。そして「クローバー」つながりの恋愛映画として、ジョン・フォード監督『譽れの一番乗』を見てもらえれば、もっと楽しめること間違いなし。

 ■gojo /1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。gojogojo.comで映画日記を更新中。

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gojo

1979年生まれ大阪出身、立教大学社会学部社会学科卒。2005年より自身のサイト「gojo」にて映画日記を執筆、2010年には蓮實重彦、黒沢清『東京から 現代アメリカ映画談議』(青土社)の出版記念トークイベントにてインタビュアーをつとめた。「森﨑東党宣言!」(インスクリプト)に寄稿。gojogojo.comで映画日記を更新中。

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