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何をポルノと感じるか―ろくでなし子さん逮捕事件に寄せて

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(C)柴田英里

(C)柴田英里

 7月14日、私がmessyでこのコラムの連載をはじめるにあたって最初の打ち合わせをした日、ろくでなし子さんが逮捕されたとの報があった。

 夕方、messy編集部に行くと、編集長は挨拶もそぞろに、「ご存知かとは思いますが、今日、うちのライターが1人逮捕されまして」と言った。この言葉から、この連載の打ち合わせははじまったのである。

 そして10月5日、シンポジウム「表現の規制と自由—ろくでなし子逮捕事件、そして、身体表現のポリティクス」に登壇し、改めて、ろくでなし子さんの逮捕の問題を忘れてはならないと思ったので、シンポジウムで私が発表をした内容を中心に記事にすることにした。

 ろくでなし子さんの逮捕事件には、大雑把に言えば、以下5つの問題が隠れている。

●ミソジニー(女性嫌悪)
●テクノフォビア(3Dプリンタという最新技術への恐れ)
●芸術かわいせつか?(3D女性器データはわいせつか)
●芸術か芸術ではないか?(自称芸術家という報道など)
●表現の自由と規制

 まずは「ミソジニー」の問題だ。ろくでなし子さん逮捕の後に起こった愛知県立美術館での鷹野隆大さん作品の警察からの撤去指示の事件で問われたのは、「言論・表現の自由」の問題が中心であったが、ろくでなし子さんの逮捕事件では、メディアは「自称芸術家」だとか、本人が公表していない年齢を大々的に報道したりだとか、見世物としておもしろおかしく脚色した。なし子さんの表現は、人に笑いを誘う・人を笑わせる要素が強いが、人に笑われるために彼女が表現をしているのでは決してない。

 これは、本来ならば(あるいは、男性が同じ表現をしたならば)「言論・表現の自由」に関わる問題であっても、女性がやるとそうではなくなってしまうことが可視化されたと言える。

 「テクノフォビア」の問題は、3Dプリンタという、最新技術を規制するために、「女性の言論・表現の自由」は男性と同等ではない、笑われるべきものだと考えている人たちがスケープゴート(生け贄)の適任者としてろくでなし子さんを指名した――と言えるだろう。

 「芸術かわいせつか?」の問題は、美術手帖2014年10月号に特別寄稿された土屋誠一さんの論考『ポルノである、同時に、芸術でもある』が詳しいが、私は、この世の全てのものはポルノ足り得ると思っている。

 例えば、世の中には「上履きの臭い」や「消しゴムと鉛筆の関係性」といったものにセックスアピールを感じる人もいるだろう。人間の性器だけがポルノやエロスではない、抽象的で、不定形で、無機的なエロスだってあるのだ。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」