仁志川峰子と聞いて思い浮かぶのは、那須の別荘が新築1カ月で流された時、「それを見たお年寄りがギョッとしないように」と流された赤パンツを自ら拾いに行ったとか。彼女について、「離婚原因はホテルの脂取り紙だった!?」(もうこれすら古い?)とスキャンダラスなネタばかりを次々と連想する人は多くても、『あなたにあげる』の歌手だったと思う人は、平成になって久しいこの時代に、もはや皆無かもしれません。あ、何周も回って火野正平さんの、例の「そういえばあの時も気っ風のいい感じだったわね」と思う奥様、というかおばさ……は根強くいるかとは思いますが。
そして、もっと多くの人の記憶に根強く残っているのは、映画『吉原炎上』で魅せたあの名怪演。仮に「歴代トラウマ名シーン大賞」というものがあればもはや殿堂入り間違いなしであろう、あの真っ赤な蒲団部屋の伝説のシーン。血の海のような朱の蒲団の海で、胸をはだけながら吐血し、「ここ噛んで~」と迫り来るド迫力の小花花魁こと峰子姐さん。
元々は歌手なのに生まれついての女優のような凄み。何かのインタビューで「日本中どこへ行っても、吉原炎上の最後の演技が凄かったと言われるのよ」と答えていた姐さん。そりゃそうですよ。今、会う人も皆言うと思います、きっと。少なくとも、私は言います。何が何でも言わせていただきたいくらい。
『吉原炎上』には、監督が自ら助監督とくんずほぐれつしながら演技指導したと言われる名取裕子嬢(当時)と、美貌と口跡の大女優・二宮さよ子先輩がねっとり絡み合うレズシーンや、そこに在る(居るではなく)だけで何かが起こりそうな園佳也子はんの存在、乳も凄けりゃ演技も凄いかたせ梨乃様、悲しい金魚の(見たらわかる)藤真利子姐さん、唇がお色気むんむんの『渡鬼』野村真美さん、時々、女以上に美しい根津甚八様。と、まだまだ挙げればきりがないほどの錚々たる顔ぶれが、それぞれ深~い名演技を繰り広げているのだが、峰子姐さんと五社監督のタッグが、終盤で最大級の竜巻を起こし、皆を一瞬で食ってしまった。見ているほうも一瞬何が起きたかわからないくらいの圧巻ぶり。ただ心臓だけが徐々に圧されてゆくような。子供はトラウマに、青年は軽い女性不信に、お年を召した方は命の危険が! という場面であった。五社美学のひとつである赤。その赤をふんだんに使った真っ赤な蒲団部屋のこのシーンを、五社監督が重要視していたのは間違いない。そこに峰子姐さんの起用。五社監督はこの重要な場面があったからゆえ、小花の配役を決めるのにぎりぎりまで悩んだらしい。で、峰子姐さんに決定したのが、クランクインのわずか8日前。当時「監督と怪しいんじゃないか」という噂好きの雀もいたらしいが、姐さんはもちろん否定。正直に何でも言う(印象)人なので恐らく違うと思うが、仮にそうだとしても、あの名演を前に、今となってはどっちでもいい話だ。
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