雑誌の対談で金田正一に「まんま女性器が歩いている顔」と言われた峰子姐さん。野球選手の言葉は判断の難しい時が往々にしてあるが、褒め言葉だろう。仮に、授業参観に峰子姐さんがいるとする。「お前の母ちゃん、綺麗だな」というバカな教師は必ず出てくるだろう。高校の友達の家に遊びに行って峰子姐さんがジュースを出してくれるなら、「エロいな」と同級生はきっと思う。スーパーでレジ打ちをするなら、おじさんの長打の列が。インストラクターだったら、やはりおじさんの入会者増。考えれば考えるほど確信めいた何かが浮き彫りになってくる。フェロモンというか。それも現代使われているような意味のフェロモンではないフェロモン。もっと雄の嗅覚をダイレクトに刺激するような。良く見りゃ白くてキメの細かい肌。旅番組の入浴シーンでたまに見せる華奢な肩。情の厚そうな絡みつく目線。ちょっと鼻にかかったあの独特の色っぽい声。“やまびこ演歌”の耳に残る声。考えてみたらフェロモンの塊のよう。THE・女! 見逃していたがお色気の教科書では? あの声があったからこその「ここ噛んで~」の抜け感の半端なさ。歌で鍛えた滑舌のよさも活きている。そう、この女ぶりと抜け感(もしくは思いきりのよさとでも言おうか)の素晴らしさが峰子姐さんの生き方にはあるのだ。
新築の別荘が流されても同じ場所に立て直す。プレイボーイ代表の火野正平に身も心も捧ぐ。結婚前、妙齢なのに出会ってすぐいたす(『結婚はオートクチュール/中村うさぎ著』より)。島の大家族に嫁ぐ。ホテルの脂取り紙を見て離婚……などなど抜け感力の枚挙に暇がないこと。捨て身に近い思いきりのよさが『吉原炎上』の小花花魁を生んだのだ。いつも書きたい放題書かせてもらってるので忘れられそうになっているが、このコラムは「昭和の女から何かを学ぼう」というのが趣旨だ。
今回、本来ならフェロモンを学ぶべきだが、こればかりは一朝一夕で学べるものではない。じゃあ何を? あの真っ赤な蒲団部屋で、はだけた裾から見える峰子姐さんの脚。とても美しいので、まだ見たことのない人は、ぜひ見てほしい。肌とスタイルを磨いただけでも、多少のフェロモンは出る気がします。
次回は、河合”オーロラ輝子”美智子さんです。
■阿久真子/脚本家。2013年「八月の青」で、SOD大賞脚本家賞受賞。他に「Black coffee」「よしもと商店街」など。好きな漢は土方歳三。休日の殆どを新撰組関連に費やしている。
1 2