著者が提案する経血コントロールのための体操「大和撫子(やまとなでしこ)のからだづくり」に出会い、経血コントロールを始めた4名の話も登場しますが、コレはもちろん論外でしょう。つまりたった2人の体験談で〈昔の女性はできていた〉になっちゃってるワケですね。なんか、アンビリーバボー。
同書の前半では「90歳以上なら誰でも月経血コントロールができていたワケではないということです」と言っていたのに、運動科学の第一人者などが登場し、骨盤底筋(性器周辺にはり巡らされている筋肉群、膣トレはここを鍛えます!)を鍛えることの健康効果などが解説されていくうちに、後半になると「昔の女性は月経血をコントロールできていた」にスルリとシフトチェンジ。そもそも著者がこの話を仕入れた元になった冒頭の医師も「母親から聞いた」レベルでありまして……。
罪深いすり替え
人間の脳はよくも悪くも柔軟にできているので、〈こうだったらいいな〉ということばかり考えていると、いつのまにか自分の中でそれが真実となってしまうことはあるかもしれません。でも、製作過程で編集者が「ちょ!? ストップ!」とならなかったのが本書最大のミステリー。この話のどこかに集団催眠スイッチがあり、皆一斉に、手押しポンプのようにドバっと経血を排出する昔の女性たちが目に浮かぶのでしょうか。下駄ばきモジャモジャ頭の名探偵に、ぜひ謎を解いていただきたいです。シリーズ最大にエグい話になりそうだけど。
膣で拭き矢を飛ばしたり、鉛筆を折ったりする〈花電車〉の存在があるのだから経血コントロールが〈絶対不可能! ありえない!〉とは決して言いません(まったく血が漏れないようにするのは、さすがに膣の構造的に無理があると思いますが)。しかし、そのような機能を〈あたり前にできていた〉というのはいくらなんでも言い過ぎ。さて、ここで思い出したのが「江戸しぐさ問題」です。
「江戸しぐさ」とは、江戸商人たちが作り上げた人の上に立つ行動哲学のこと。道ですれちがうときに傘がぶつからないようにする「傘かしげ」などのマナーを、現代も見習うべきだと話題になったものです。ところが歴史研究家の原田実氏によってひとつひとつ検証され、その結果「江戸しぐさはデマである」と暴かれました。
これは〈いい話なら何でもねつ造してもいいのか?〉〈それを現代批判の道具に使うな〉〈古きよき日本を神聖視しすぎ〉という問題をはらんでいます。
経血コントロールの場合はそれに加え、より快適に便利にという現代女性の生活環境の退行につながりそうです。〈常に経血が漏れないよう気にして動き、こまめにトイレに行って出せ〉というのですから。骨盤底筋を鍛えるのは結構ですが、わざわざ経血を不自然に膣にためる必要が全くわかりません。また、〈現代女性は体の機能が低下してる!〉と脅されることに加え、今やこんな健康効果までうたわれているのです
・生理が早く終わる(骨盤底筋を使うと、はがれる内膜の量が変わるわけ??¥)
・生理痛が軽くなる(痛みは子宮が収縮するときの痛みなので、骨盤底筋を使っても関係ないと思われます。というか、痛みがひどければ医師へ相談を)
・経血量が少なくなる(加齢にともなう現象のひとつです)
・子宮脱や尿漏れ防止になる(まあコレは正しいでしょう)