中盤には、無事に産まれて来た長男の写真や、日常生活の写真、スタジオで撮られた家族写真がふんだんに盛り込まれている。矢部が長男をベビーバスに入れる様子も掲載されていたが、ベビーバスが風呂の床に置かれているため、しゃがんでいる短パン姿の矢部が180度の大股開きになっていてなんか無性に気持ち悪い。はみチンしそうな露出度である。
とはいっても、長男誕生からハーフバースデーまでを綴った後半戦「300日間ダイアリー ママ編」の日記は、出産を経験していれば共感するようなところも多々あった。「浩之さんにむかつく。寝かしつけのときに話しかけられて稜が起きたのに、自分じゃないと言う」と寝かしつけを巡る夫婦のいざこざ。義母が訪問することになりその準備をしていた日の日記では「浩之さんの無責任な“休め”という言葉に腹が立つ」と義家族襲来に気を使いまくる様子は、嫁あるあるではないだろうか。「浩之さんにむかつく。スマホばっかり見ている。すぐに稜をおいてタバコを吸いに行く。“何でも言ってくれればやる”という言い分に腹が立つ。つまり、言わないとやらないということか」など、出産後の夫への憤りは皆似たようなものだと分かる。
その一方で青木が完璧主義な性格ゆえに感情が上下しがちな面もチラホラと垣間見える。例えばお宮参りでトラブルがあり、その翌日には「思い出し悔し泣き。稜の初めての大きな行事をもっとちゃんとできなかったものかと悔やまれる」と大泣きしていたり、「寝られなくてしんどいので、家事を手抜きしたいのだけど、掃除と洗濯はしないわけにいかないから、夕飯は手を抜くと宣言した」など、もっと手抜きしてもいいんじゃないかというぐらい頑張っているのである。妊娠中の日記でも出産に関する覚え書きが唐突に登場したり、出産後の日記もお食い初めの準備に関するメモが唐突に登場する。お食い初め後は「準備を完璧にして臨めたのでとてもよい写真が撮れた」など満足していたが、完璧主義だからこそ不安が大きくなったり、予期せぬトラブル発生時に悔し泣きしてしまうのだろう。
ただ、青木はとにかくよく泣く。涙は彼女にとってはさほど特別なものでもないようだ。まだ結婚する前の2010年、矢部と交際がスタートした時期に、彼女は初書籍『明るく楽しく』(辰巳出版)を出しているのだが、こちらには「頑張るためのリセット」として「大泣きもリセットになりますね。一週間に一回くらい大泣きする事もあります。わーっと泣いて。泣いて、感情を全部出してしまうとすっきりします」と書いている。人ぞれぞれと言ってしまえばそれまでだが、一週間に一回大泣きって、けっこう泣いてません?
翻って、『母、妻、ときどき青木裕子』はラストにまた写真があり、「我が家の定番内祝い」とか「矢部家ごはん」とか全然興味のないものがこれでもかと惜しみなく公開されている。全編通して読む限り、一体誰のために制作された本なのかさっぱり分からなかった。まえがきには「妊娠中のある時期、一つでも多くの経験談を聞きたいという猛烈な欲求にかられたことがありました」とあり、自分の体験談が不安な妊婦たちにとってひとつの参考になれば……という意図で出版に踏み切ったと想像できる。が、“参考”になるかと言われたら疑問である。妊娠~出産~子育てにおいては各家庭ごとにさまざまなパターンがあり、青木の望むような「完璧」はありえない。そのシーンごとで困りごとがあれば、母親はタレントのエッセイやブログを読んで参考にするのではなくて、専門家による書籍を参照したり身近な専門機関に相談した方が賢明だろう。マタニティフォトから家族写真までお腹いっぱいになるくらい掲載されているが単なる家族のアルバムのようなもので世に出す意義があるかといわれたら謎である。ほんと……自己満足だったら自費出版でやってくれよー!
『明るく楽しく』には、かつて青木がレギュラーで出演していた情報バラエティ『サンデー・ジャポン』(TBS系)のディレクターが「最初の印象は、キレイで頭がよくて、自分のことが大好きな人という感じでした(笑)」とメッセージを寄せている。今回の書籍も自分大好きが高まりすぎた結果の出版だったのかもしれない。結局、中身からは“吉本第2のゴッドマザー”と言われるほどの器のでかさはまったく感じられなかった。それとも、感情の乱高下が激しくて躁鬱を繰り返すタイプの彼女こそがこれからの時代の「ゴッドマザー」なのか?
■ブログウォッチャー京子/ 1970年代生まれのライター。2年前に男児を出産。日課はインスタウォッチ。子供を寝かしつけながらうっかり自分も寝落ちしてしまうため、いつも明け方に目覚めて原稿を書いています。
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