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押切もえの新作小説は、魂から放たれるS.O.Sなのか

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押切もえオフィシャルブログより

押切もえオフィシャルブログより

 2013年に『浅き夢見し』(小学館)で誰も予想しなかったし、求めてもいなかったであろう小説家デビューを果たした押切もえが、2作目となる短編小説を『小説新潮』1月号(新潮社)に発表なされたと聞いて、ものすごく読むのを楽しみにしていました。

 押切先生と言えば「見るたびに顔が変わっている整形顔面劣化女」だとか「方向性が定まらなさすぎの自己啓発マニア」だとか【messy】上では、突っ込まれキャラとしての立ち位置を確立しつつあるようですが、押切先生の悪口はそこまでだ! 野間口貴彦(元カレのプロ野球選手)が許しても、あたしゃ許さないよ! なぜなら、私は作家としての押切先生の大ファンなんですから。

 で、この2作目「抱擁とハンカチーフ」ですよ。ニュース・サイトに載っていた情報によれば『小説新潮』の編集長が絶賛したとかで、私はホントに期待していました。「一体、どんだけ上手くなっているんだ」と。

 結果、その期待はガッツリ裏切られるわけですが、このガッカリ感もまた押切先生の持ち味。たしかに、担当編集者が相当頑張ったのか、押切先生の努力の賜物なのか、前作と比べると「小説らしさ」は増しています。前作では情景描写で話を繋げられず、説明的な会話文の連続で話を進めがちな弱さがありましたが、今回はかなり頑張っている。少なくとも吉木りさの小説よりは数十倍小説っぽい。ただ、「抱擁とハンカチーフ」は絵画を題材にした話なのに、描写力・表現力が足りてないので、どんな絵が描かれているのか全然わからないし、その絵の魅力や、逆に魅力の無さも伝わってこないという致命的な欠陥が……。

 まだまだプロの小説家にはほど遠い押切先生。これをもし小説家志望のサブカル男子が読んだら「才能もないくせに、モデルだからって小説家デビューできるなんて! だから日本文学はクソなんだ!」と憤死するか、あるいは自分がかつて書いた恥ずかしい駄作小説のことを思い出し、恥ずかしさのあまり憤死するか、いずれにせよ死んでしまうでしょう。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra