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母性と愛が、男と地球を救う? 女児向けアニメの安易な「愛」濫用は罪だ

【この記事のキーワード】

「男性優位社会」の落ちこぼれは苦悩する

 ではなぜ、プリキュアシリーズではダメな男性が描かれ続けたのでしょうか?

 それは、プリキュアたちが、プリティ(かわいい)かつキュア(癒す)な存在であり、愛の力で憎しみと戦う少女であるからかも知れません。この傾向は、敵を倒す(殺す)のではなく浄化(癒す)ことが主流になった『フレッシュプリキュア!』以降、顕著になっていきます(とりわけ『ドキドキ!プリキュア』『ハピネスチャージプリキュア!』)。

 敵がプリキュアを憎み世界を滅ぼそうとする理由を、「愛ゆえに道を間違え、愛ゆえに憎む」からだとし、最終的にプリキュアの少女たちの「愛」によって浄化される――という筋書きは、「愛」を強化するために「憎しみ」が必要なのだ、と読むことができます。

 「愛の強化」のためにダメな男性というモチーフを頻用するシステムが確立されているプリキュアシリーズですが、ここからプリキュアに託された欲望、プリキュアの少女たちの母性・女性性・処女性の正体が見えてきます。

 やや攻撃的な言い方をすれば、プリキュアの能力とは、「男性優位社会に寄り添う形での母性・女性性・処女性という権力」なのかも知れません。そして、それが見えすぎてしまったが故に、『ハピネスチャージプリキュア!』は、多くの視聴者に、『アイカツ!』や『プリパラ』、『妖怪ウォッチ』などに比べて精彩に欠ける印象を与えているのではないでしょうか。

 また、『ハピネスチャージプリキュア!』の男性陣において一番健闘するも結局闇落ちした誠司くんは、現代日本において専業主夫をする男性の苦悩を表しているようにも思います。誠司くんが闇落ちしたのは、「好きな女の子よりも力がない劣等感」と、「好きな人が他の人を好きという嫉妬」が主な要因でした。湧き上がる嫉妬が、「劣等感」および「社会からも特定のコミュニティーからも疎外感を受ける」ことにより回復できないという問題です。「好きな女の子よりも力がない」からといって、劣等感など持たなくても良いのに、と思いますが、これこそが、「男性優位社会」が、女性のみならず多くの男性をも苦しめる元凶の一つです。

 「女性よりも有能ではない男性は男性に非ず」という社会の要請によって傷ついたり、自罰的になったり、「女性を軽蔑する」以外に自分のアイデンティティの拠り所がなくなったり。社会的に形成された「男性性」に苦しめられている男性は少なくないでしょう。これは、「専業主夫である父親」が陥り得る孤独(社会からも、「ママ友」などの子を持つ親のコミュニティーからも疎外される)とも共通します。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」