もうひとつ「ん?」と引っかかった点がある。男女共に、パートナーになり得る異性として相手に認識してもらうためには外見がとても大事。それはよくわかる。きらびやかな格好をして目立てばいいのではなく、ヨレヨレでない清潔な衣服と切りそろえられた爪、整った髭と髪の毛。それだけで合格点だといわれるのは納得で、不潔な服装や個性的過ぎる格好は「相性が合う・合わない」の判断をサクッとつける基準になりやすい。
西田所長は婚活男性が自分自身のセンスを磨くなんて潔く諦め、こだわりも捨て、「1万8000円出して、ユニクロの女性店員さんに全身コーデしてもらいなさい」と言う。そうやって揃えたユニクロコーデを着て、美容院へ行き、女性美容師の手で髪も整えてもらいなさい、と。でもこれも、初対面の女性に引かれないポイントとして重要ではあるものの、継続できないのなら、成婚後に妻が「こんな気持ち悪い人だったっけ……?」とがっかりする要因になりえるのでは。
また、ファッションセンスに長けた美容院の女性スタッフが向こうから喋りかけてくれる状況は、独身男性にとってパラダイスなので、女性との会話術を学ぶ場として活用することも推奨されている。キャバクラで2時間女性と会話するなら数万円の出費がかかるけれども、美容院なら1万2000円くらいでカッコよくしてもらえたうえに会話もできると。いやいや、美容師はキャバ嬢じゃないんで、そんな期待をして来られたら迷惑なんですけど……。結婚後は、嫁を「ユニクロ店員」や「美容師」代わりにして、センスを維持してもらうつもりなのだろうか?
100%合う人などいない
次に参照したいのは『男のための話し方トレーニング「婚活」の会話にはツボがある!』(青春出版社)。NPO法人花婿学校代表で婚活コンサルタントの大橋清郎氏の著書である。これはなかなか厳しい。
・あなたの笑顔や表情の良し悪しは相手が決める
・会話の良し悪しも相手が決める
・結婚できる人は結婚相手を決められる人であり、相手に決めてもらえる人である
だから「謙虚であれ」というわけだ。エラそうな態度はNG。上から目線NG。努力しないありのままの自分もNG。「海が好きですか、山が好きですか」と相手に聞いておいて、「海です」と返答があったのに、「僕は山です」と返すのはNG(質問を無効にしている)。などなど、細かいNG項目がたくさんたくさん並び、「じゃあ一体、何を話したらいいんだ」と混乱し絶望してしまう男性読者もいるかもしれない。しかし確実に胸にとどめておきたいのは、
・100%自分に合う人は自分しかいない
・100%合う人と結婚したいなら、自分とするしかない
・違いを受け止めなければ結婚はありえない
という三点だ。合わない相手とパートナーを組むのが結婚。婚活過程で相手を品定めするにあたって一番重要なのは、その相手の容姿や意見の「良し悪し/正しいか正しくないか」ではなく、「許せるか許せないか」だという。大橋氏の講座では、「女性になんでそこまで下手に出なければいけないのか!」「バカバカしい!」と怒り出してしまう受講男性もいるそうだが、そういう場合は「では結婚しないほうがいいです」と一刀両断する。合わないけれど、一緒に歩いていきたいと思える相手と出会うための婚活であり、その人と出会うために間口を広げる、間口を広げるために自分をより良く見せる努力をし女性に良く思われる態度の訓練をする……実に合理的である。女性の知り合いがいないし紹介をしてもらえないという男性については、「まず同性の友達から『女の子を紹介してあげたい』と思われるような良好な関係を築くこと」を促す。『周囲の人間はみんなわかってくれないけど、天使のような女の子がきっと僕を見つけて救い出してハッピーにしてくれるはず』なんていう白馬の王子様幻想的な淡い期待は一切捨て、ひたすら努力と訓練をしてコミュニケーション能力を高めましょう、という話がそこかしこに詰まっている。男性のみならず、女性も読むと参考になるのではないだろうか。