昨年の11月刊行された冨永愛の自伝は当コラムでも取り上げました。その繰り返しになりますが「不良少女のサクセス・ストーリーと家族の再生」が綴られているだけの本書は、ほとんどケータイ小説みたいで物足りない本です。「冨永愛の自伝をなぜか長渕剛がプロデュースしている」という背景のほうがどうしても気になってしまう。元スーパーモデルが長渕に弟子入りしている、って謎すぎるじゃないですか。
冨永にとって、長渕は子育てや生き方について厳しく指導してくれる恩師のような存在になっているそうですが、指導ができるほど立派な人なんでしたっけ……とか疑問に思う方も多いハズ。「週刊文春」2015年3月12日号(文藝春秋)には、この件に関する長渕への直撃取材記事が掲載されていて、謎の師弟関係ウォッチャーには見逃せませんでした。
ゴシップ記事なのにノワール小説調
長渕直撃取材に至るまでの様子を、「文春」記者はかなり詳しく書いています。深夜の高級住宅街、冨永の運転するヴェルファイアから出てきて、愛車のアストンマーティンに乗り換える長渕を、記者は直撃。そこから長渕の大豪邸(延べ床面積700平米超)に招かれてインタヴューが始まるんですが、これ、普通の人の神経ならめちゃくちゃビビると思うんですよ。長渕はガチガチに肉体を鍛えてますし、スタッフへの暴行疑惑とか、20年前に大麻取締法違反で逮捕とか、いろいろある人でしょう。「ちょっと家行くかい?」と長渕邸=密室に誘われたが最後、監禁のうえ、革靴で蹴られたり……とか想像しちゃうと思うんですよね。もう、ノワール小説みたいで。
で、長渕邸のリビングで記者も遠慮なく「ぶっちゃけ、どうなんですか? 男女の仲ですよね」とズカズカと質問していくんですけども、長渕はもちろん全否定。そういうのじゃないんだ、と。二人の師弟関係は子供の教育や生活問題の解決を中心としたものであって、ヨコシマな部分は一切ない。途中でドスのきいた声で凄んだりしてノワール感はますます高まっていく。取材は長渕のマネージャーとスタッフも同席していたそうですが「これ、スタッフが立ち会ってなかったらもっと修羅場だったんじゃないかなあ、怪我しなくて良かったね」と思いつつ、なかなか手に汗握る、というか楽しく読みました。
ただし、師弟関係の詳細についてはこれまで出ている情報以上のところに踏み込まれないので全然物足りない。長渕から冨永が「毎朝息子と一緒に坂道ダッシュを命じられている」という、聞いたら思わずキョトーンとなってしまうような熱血指導内容について知りたかったのに……。焦点は「ヨコシマなことやってんでしょ? やってないわけないですよね?」とそれだけ。「子供がかわいそう」って発言小町的なコメントであまり使いたくはないですが、すごく言いたくなる案件になっているように思いました。
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