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男たちに蔓延する「Fw:症候群」とは? 黙殺される『問題のあるレストラン』から見えたもの

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スマホやイヤホンは男たちの便利な“現実逃避ツール”

清田 このドラマには、セクハラオヤジやストーカー男といったわかりやすいクソ男も多々登場するんだけど、とりわけ「うわっ!」って思わされたのは、細かいディテールの方で。

佐藤 どういうこと?

清田 例えば雨木社長って、都合が悪くなったり、面倒くさいことを聞かれたりすると、決まってスマホをのぞくのよ。そんで「ロンドンの株式市場が云々」とか言って話をそらそうとする。これってさ、男がよくやる手じゃない? 女子から聞く恋バナには、スマホばっかいじってる男たちのエピソードがよく出てくる。

佐藤 ああ、それですね……。ていうか、私もよくやっちゃうので何とも言えないんですが、スマホって便利なんですよ。何となく、仕事や急な用事っぽい雰囲気を装えるので。

清田 確かに気持ちはわかるけど、それって家族旅行中ずっとニンテンドーDSやってる小学生と変わらないよね。ゲームやスマホの中に引きこもって、目の前の現実と向き合わない。いつもイヤホンして周囲とのコミュニケーションを遮断していたシェフの門司(東出昌大)も同じだと思うけど、こういう“男の逃避癖”を見逃さずに盛り込んでいるあたりがすごいなあと。

佐藤 それで言うと私は、第4話で調理場見習いの星野(菅田将暉)が新田さんと初めてセックスするんだけど、彼の翌朝の態度がとても胸に刺さりました。星野は前日に就活の面接に遅刻しそうな新田さんを車で会社に送ってたんだけど、セックスした翌朝は、時間ギリギリで「最終面接に行かなきゃ……」ってなってる新田さんをスルーした。星野は多分それに気づいてたんだけど、眠気と面倒くささに負けてそれを流した。

清田 「出た〜、セックスした瞬間に怠慢になる男!」ってシーンだったね。

佐藤 でもね、実は私も、昔つき合ってた彼女に似たようなことをしてたんですよ。彼女は忙しい人で、仕事終わりが遅かった。しかも朝も早くて、ウチに泊まるときは夜中に来て朝早く出て行くって感じだったんだけど、つき合いたてのときは、私も朝起きて駅まで送っていたんですよ。

清田 あ〜、先が読める(笑)。

佐藤 案の定、だんだんと怠慢になってきて、駅まで送っていたのがマンションのエントランスまでになり、それがやがて玄関までになり、最後は布団からすら出なくなった。私は比較的ゆっくり寝られたので、彼女がどんなに夜遅く来てもセックスだけは毎回キッチリするわけですよ。彼女は仕事だから、早起きして、ちゃんとメイクもして、家を出て行く。こっちが目を覚ますと、「ごめん起こしちゃった?」とか気を遣ってくれるわけです。なのに私は、眠気に負けて送る距離を4段階も縮めていった……。

清田 終わってるけど、自分も同じ穴のムジナすぎて死にたいです。

佐藤 でも、当時の私は、「布団の中でバイバイ」が標準で、送ったら送っただけプラスになるという“加点法”的な発想だったんですよ。だから正直、怠慢になっているという意識はなかったように思う。これって例えば、多くの夫たちが家事や育児に対して持っている意識と似ているかもしれない。それらを本来自分の仕事じゃないと認識してて、やればやっただけ加点されると思い込んでる。だから家事を「手伝ってる」なんて表現がナチュラルに出てくるんじゃないか。

清田 おそらく「駅まで送るかどうか」って、付加サービスではなく、二人の良好な関係を維持していくための行為なんだよね。

佐藤 「自分はそれをサボってたんだな」って、二度寝した星野の姿を見て思い知らされました……。

清田 あとこれも細かいところなんだけど、第3話で雨木社長が、娘の千佳と元妻の奏子(堀内敬子)と3人で食事するシーンがあったじゃない? この家族の過去は非常に複雑で、まだ夫婦だった頃、雨木は浮気しまくりで家庭も育児も放棄していた。それでメンタルをやられてしまった奏子は引きこもりの主婦になってしまい、まだ小学生だった千佳が食事から何からすべての面倒を見ていた。

佐藤 ここはマジでキツかった。母親の自殺を心配して、小学生の娘が一生懸命そのケアをするだなんて……見てて込み上げるものがありました。

清田 そういう過去がありつつ、奏子も千佳もかろうじて3人で再会できるところまで回復したんだけど、やはり腹に据えかねているものはある。それで食事の席で奏子が「引きこもっていたのは私」「千佳が料理の腕を上げたのは、私を死なさないため」「それで私は千佳を捨てて家を出た」と溜まっていた気持ちを雨木にぶちまけるんだけど、その返答のセリフがヤバかった。お願いします。

佐藤 えっ、私? あ、じゃあ……「まあ、そういうこともあったけど、今はみんな元気なんだからいいんじゃないのか。また二人で一緒に、暮らせばいいじゃないですか。お金は出すと言ってるんです」と。

清田 とにかくこの“他人事感”がヤバいレベル! もちろん引きこもりになってしまった母親にも一定の責任はあると思うけど、元はと言えば、この父親に原因の一端があるわけだよね。娘と元妻の同居をここまで推奨する雨木に、男の“Fw:症候群”が見え隠れするわけです……。

佐藤 Fw:症候群!?

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清田代表/桃山商事

恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆などを通じ、恋愛とジェンダーの問題について考えている。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)や『大学1年生の歩き方』(左右社/トミヤマユキコさんとの共著)がある。

twitter:@momoyama_radio