DVに気づいてから、私は彼に何も告げないまま夜逃げし、行方をくらましました。
彼に逆らうなんて考えただけでも恐ろしくて、「暴言をやめてほしい」「別れてほしい」なんて、とても言えなかった。
一人では、とても彼と別れることはできなかったと思います。
女性センターの相談員や、DVの支援団体の方、弁護士など、専門家からアドバイスをもらえたことは、大きな支えになりました。
「話し合えばわかる」のウソ
よく、DV・モラハラを受けている女性に対し、「きちんと話し合えばわかるはず。あなたが弱気だから、彼が付け上がるのよ」「我慢してしまったあなたも悪い」などと言う人がいます。
二人の関係が、暴力の無い、平和で安全なものだったら、話し合いも可能かもしれません。
暴力は、言葉を封じます。殴る、怒鳴る相手に、意見なんて言えるわけがない。
彼や夫の機嫌を損ね、さらなる暴力を受けてしまう危険性もあります。
DV・モラハラは話し合いでは解決できないのです。
日本では、加害者への法による拘束力は、「保護命令」(被害者へのつきまといや、被害者の住居・職場等の近くを徘徊することを禁止する命令)しかありません。
DVをやめさせるには、被害者である女性が、パートナーから逃げて姿を隠すしかないのが現状です。
でも私自身、知識としてはわかっていても、そう簡単には割り切れませんでした。
彼のことが好きだったし、6年間一緒に暮らした情もあります。彼に私のつらい気持ちをわかってほしい。暴力を認めて、謝ってほしいという気持ちもありました。
「彼といても、幸せになれないことはわかる。でも、彼を失いたくない。一人で生きていく自信がない」
そう思い、悩みに悩みました。
迷い、混乱する私の背中を押したのは、女性センターのDV相談員の言葉でした。
相手の気持ちを思いやる必要は無い
「彼が変わる可能性はないのでしょうか? 話し合いで解決はできないのでしょうか?」
彼の外出の隙を縫って、私はよく都の配偶者暴力相談支援センターに電話をかけていました。
精神的にも肉体的にも参っていたとき、相談員さんの落ち着いた声に、何度勇気付けられたか知れません。
「残念だけど、彼に期待しても無駄だと思う。あなたが傷つくだけよ。
だって、考えてもみて、今までの付き合いの中で、彼が一度でもまともにあなたの意見を聞いてくれたことがあった? 自分の間違いを認めて、謝ってくれたことがあった?」
「……ありません」
彼は、「普通は〇〇だ」「常識では〇〇だ」「女はこうするものだ」という言葉を好んで使いました。
そして、それができない私を、「世間知らずだ」「わがままで自分勝手だ」「こんなこともできないのか」と言ってなじりました。
私が何か意見すると、ものすごい勢いで反論され、結局はいつも言い負かされてしまう。
彼の言葉は私の中で内面化され、私はいつしか、「全部彼の言うとおりだ。私はなんてダメで、バカな女なんだろう」と思い込むようになっていました。
「でも、夜逃げなんて……。彼がどう思うか」
もし私がいなくなったら、彼は一人でやっていけるだろうか?
食事作りや、掃除など、彼はきちんとこなせるのだろうか?
家事など何もできない彼のことを思うと、彼のこれからの生活が心配でなりませんでした。
「彼の今後を思いやる必要は無いの。あなたが正しいと思う選択が、正解なのよ。
あなたはずっと、彼を一番に考えて、自分を抑えてきたのよね。そんな中で、『DVを受けている』と気づけたことは、すごいと思う。
これからは自分を優先していいの。自分を大切にして」
相談員の女性は、優しく、でもきっぱりとした声でそう言いました。
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