――本では「その頃の私は本当に、自分を好きになってくれた相手の好意を都合よく搾取するだけの、恋愛やくざだったのだ」とあります。
小野 恋愛やくざになって、恋心や好意を搾取すればするほど自分の価値が高まるって思っていたけれど、実は全然そんなことなくて。私の場合は、一番自分の価値を認めて欲しかったのは母親だったんですけど、その穴を埋めるために恋愛相手を利用しようとして、でも別のものだから埋まるわけがないという。親とのぐちゃぐちゃな関係だけじゃなく、仕事もイケてなくてバイトを転々としていて、やりたいこともやれていなくて、その頃は友達付き合いもうまくいっていなくて……他の部分の満たされなさを、恋愛で埋めていたのかなって思いますね。「付き合おう」と言われて、全然好きじゃないのに付き合う、とか。
――「付き合おう」って言われて、小野さんは「いいよ」って答える?
小野 気の弱さが災いして、断れないんですよね……そういうところも恋愛やくざだなって思うんですけど。でも相手に気を持たせている状態も快感というか、なんて言うんだろうな、愛されている私に酔っているわけですけど。「付き合おうよ」って言われて、「この人じゃないな」って思っても、好意だけは欲しいから仕方なく付き合って、でも不満はずっとあるみたいな。「自分は好きじゃないけど好かれている」って状態が気持ち良くて、そういう状態をぬるくキープする恋愛をずっとしていましたね。
――別れるときは、どうするんですか?
小野 私が一方的に「もう会いたくない」って言って、別れるパターン。相手とちゃんと向き合う恋愛をしていなかったんです。
――恋愛ゲーム的な駆け引きってしていました?
小野 駆け引き的なものの意味のなさに銀座で気づいたので、ゲームはしていません。「自由に振る舞う私を見て好きになってくれる人と付き合えばいいんだ」と思ったので。ただ、他人の気持ちを弄ぶような恋愛やくざは、良くなかったですよね……。
――今はどうなんですか? やくざっぷりは。
小野 今は全然やくざしてないですね。自覚してからは、「こんな恋愛はやめよう」と思いましたし、何よりその恋愛で自分の価値が高まるわけじゃないし、空虚な穴が埋まるわけでもないんですよ。今、「恋愛工学」が話題になっていますけど、本当に狂っている人以外は、相手をモノとして見て、搾取を続けていると、そのうち心が削れていくと思いますよ。「搾取されないために搾取してる」んだから、疲れる。たぶん、恋愛工学とかナンパとか得意げにやっている男の人たちは、そのうち精神的に病んで疲弊して辞めるか、「傷つかずにいられる自分」に酔い続けたまま歳を重ねて、悲惨なことになってゆくと思いますよ。そうなった時に一緒にいてくれる異性がいるといいけど。なので私は、そういう関係に陥りそうになったら、自分からやめていますね。
――どういう風に「あっ、今私、恋愛やくざしそう!」って気づくんですか?
小野 「この人の好意を搾取しようとしている」って思ったらやめます。
――どういう風に意識すればいいんですか? 関係をばっさり断つっていうのは違いますよね。
小野 難しいんですけど、相手を人間として見るようにするというか……。「恋愛だ」と思うと、人間、結構失礼なことを相手にいくらでもできるじゃないですか。相手をモノ扱いしたり自分の操り人形にしようとしたり。でも恋愛の土台にあるのって、友達付き合いとか、普通の付き合いじゃないですか。恋愛って特殊な関係だと思われがちだけど、土台には普通に人と人の関係があるわけで、「人に対してこんな態度をとるのは、ないな」って思うようなことを自分がしてしまっているとか、してしまいそうになっていると気づいたら、正直に相手に言います。
――失礼だったなと思ったら、「すいません」って言うって風に。
小野 「そういう感じになってるからこの関係やめるね」って言ったりしますね。
――恋愛が他の人間関係と違って特別に見えるのってやっぱりセックスするからなんですかね?
小野 そうですねえ……それもあるし、その手前に、セックスに対する固定観念があるからじゃないでしょうか。
――セックスイコール「愛情ゆえの特別な行為」っていう固定観念が。
小野 めちゃくちゃありますよね。それだけじゃなくて、「女が与えて男がもらうもの」とか、「女もがつがつセックスを楽しむべき」っていうのも固定観念のひとつだし、多種多様。
――でもどれもセックスを特別視してる。それによって恋愛が何か崇高な、友人関係や仕事関係よりも上位のつながりであるような幻想、ロマンティック・イデオロギーが発生してしまって、恋愛やくざも誕生するような(笑)。
■小野美由紀(おの・みゆき)/1985年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。学生時代、世界一周に旅立ち23カ国を巡る。卒業後、無職の期間を経て2013年春からライターに。http://onomiyuki.com/
(取材・構成・写真/下戸山うさこ)
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