ドラマとコマーシャルの違い
【がんばる女性を応援するために、女性を一旦貶める演出】の「ズレ」は、ドラマ『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)でも活用された方法論だ。強弱の構造を極端に強調する対比演出は、弱者に設定した者のポジティブな飛躍を描くための常套手段である。
その苦境が現実に起こり得るシチュエーションであるほど、賛否両論の物議は活性化する。「そうそう、あるある!」と自分の体験を重ね合わせ、がんばる主人公たちの活躍によって溜飲を下げる者がいる。嫌な体験を思い出してうんざりする者もいる。ミソジニー、ミサンドリー等、個々の価値観や印象、程度の差によっても感想は異なる。
女性の苦境を男性が演出した場合、それもまた恣意的な差別ではないか、表現のために女性の困難を利用するのは傲慢ではないかと、違和感を持つ者もいることだろう。私自身は、日頃【がんばる女性を応援する俺をアピールするために、女性をネガティブベースで語る男性】が嫌いだ。大きなお世話であると同時に失礼だと思うからだが、個人の主張ではなく、フィクションの演出であるなら見方は変わる。
創作表現の醍醐味は、価値観の異なる人々の様々な感情をあぶり出すことだ。強弱演出の「ズレ」は、視聴者自らが答えを導くための余白であり、答えの押しつけではない。
よって、ルミネのCMの「ズレ」も様々な物議を醸し出すソースになればいい――とはまったく思わないのは、本件には【一企業の利益を促進させるコマーシャル】という答えの落とし所が用意されているからだ。
しかも、「よし、じゃあルミネで買い物をしよう」と購買意欲を刺激される女性がそうはいないことが明白な点。実際に非難の対象となった点。公開をすぐに取り下げ、謝罪に至った点。上記を鑑みても、企業にとって有益に稼働するための広告映像という本分が、明らかに破綻している。
つまり、本CMは、広告戦略に長けた企業のプロモーション・ツールとは思えないくらい「下手」なのだ。