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下手なCMは数を打っても当たらない件

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ネット上での広告批評

 最後に、本騒動の唯一の利点を挙げたい。下手な仕事は、簡単に見破られる、という教訓を得たこと。これに尽きる。

 事情も守秘義務も契約もあるCM等の映像コンテンツは、その工程の情報や制作者の思いが即座には表に出にくい。誰が、何を目的に、どんな思いでCMを手がけているのか。現場で何をしているのか。差し支えのない範疇の情報が専門誌に取り上げられることはあっても、一般的には内情がよく見えない。

 「事情」があるから、批評や議論も活性化しない。事実に基づいた批評を書きたくとも、事実が守秘されている場合、状況を教えてもらえないこともある。そんな透明マントをかぶった状態に慣れた制作者の中には、「いい加減な仕事を迂闊に世に出したら、批判される」という、すべての職種にあてはまる当たり前のことを自覚できない者もいる。矢面に立たされないからだ。

 一般視聴者は、ちゃんと見ている。それが本件によって明示されたことは、職務の責任を再認識する良いきっかけであると考える。

 生産者を明記する農産物が責任の所在を明らかにし、一つのプロジェクトの工程や情報をネットでオープンに共有する時代。自分の仕事に誇りを持つ名クリエイターは、責任をもってしっかりと矢面に立つ。彼らが自身の関わる仕事や背景について、ある程度自由に語れる機会も増えた。それはクライアント以下スタッフに信頼されている証拠であり、だからこその名クリエイターなのだ。

 彼らの素晴らしい仕事と思いを伝える機会を増やすことが私自身の仕事である以上、もっとがんばらなければならないと気を引き締める。同時に、下手なコラムを書いて叱られてばかりいるので、自分こそ精進しなければならないとまたしても自戒するに至るのだった。

■林 永子(はやし・ながこ)/1974年、東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業後、MVを中心とした映像カルチャーを支援するべく執筆活動やイベントプロデュースを開始。現在はライター、コラムニスト、イベントオーガナイザー、司会として活動中。

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林永子

1974年、東京都新宿区生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業後、映像制作会社に勤務。日本のMV監督の上映展プロデュースを経て、MVライターとして独立。以降、サロンイベント『スナック永子』主宰、映像作品の上映展、執筆、ストリーミングサイトの設立等を手がける。現在はコラムニストとしても活動中。初エッセイ集『女の解体 Nagako’s self contradiction』(サイゾー)を2016年3月に上梓。