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ケア論・キュア論を無条件賛美するヤバさについて

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八紘一宇=みんな仲良く?

 女児向けの魔法少女たちは「愛と献身と自己犠牲と母性」によって平和のために戦っているのだから、「ファシズム」になんて例えないで欲しい。という声が聞こえてきそうですが、軍国主義・ファシズムは、歴史的にみても「愛と献身と自己犠牲と母性」と相性が良く親和性があります。

 ナチスドイツでは「女子教育の不動の目的は未来の母親である」と明言し、「授乳する女性」のポスターなどがつくられ多くの女性に支持されましたし、同時代の日本でも「産めよ増やせよ」がスローガンになり、「授乳する女性」や「兵士を送り出す母の涙」というモチーフのポスターが数多く作られました。

 最近、自民党の三原じゅん子議員の「八紘一宇発言」が物議を醸しましたが、「全世界をひとつの家にする」という考えと、女児向け魔法少女の多くが持つ「みんなが仲良く争わず、愛と献身と自己犠牲と母性によって世界を平和にする」というイデオロギーは、非常に親和性が高いように思います。

無償の愛と奉仕が要求される異常性

 同時に、「ケア」や「キュア」が語られる時には、その仕事によって発生する賃金の話が蔑ろにされがちです。

 老人介護をはじめとしたケアワークは、重労働であるにも関わらず低賃金であることが多い職種です。前回、『問題のあるレストラン』最終回にまつわる記事でも述べましたが、「料理」「掃除」「コミュニケーション(接客)」という、家事労働に近い業務を請け負う飲食店での労働がブラック化しやすい問題と、ケアワークの低賃金・ブラック化は、非常によく似た案件であるように思います。

 「誰かが(タダで)やってくれると嬉しいこと」「みんなが幸せになるためのサービス」「女子力」などなど、口当たりの良い言葉の響きによって、低賃金や重労働の問題をスルーすることこそが、貧困問題を悪化させる原因の一つに他なりません。

 そしてそれをとりわけ女性に押し付けることや、低年齢の子供に「女の子のあるべき良い姿」として「ケアとキュア」のポジティブな面のみを強調して提示することは、その後の人格形成に大きな影響を与えると予想できることからも、無視できない問題です。

 初期は敵を殺していたプリキュアシリーズが、メイン視聴者である女児の保護者の意向によって「敵を殺さずに癒す」ことに方向転換していったことも、賛美ではない方向、『なぜ、「女の子」は戦闘においても「ケアとキュア」の論理を求められてしまうのか』という観点からもっと考えられるべきです。

 「女児の母性を育む」とか「誰にでも優しい人間になって欲しい」なんて当たり障りのないことばかり言う人こそ、「人格の教育」がしばしば孕む「洗脳性」について目を向けるべきです。

 非常に簡単にざっくりまとめると、「ケアとキュアの無条件賛美」は、ファシズムと女性の貧困門題という二つの観点からヤバいと言えるのではないでしょうか。

■  柴田英里(しばた・えり)/ 現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。Twitterアカウント@erishibata

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」